窓口の向こう側に広がる絶望に光を当てる執念の調査報道
公的資金も 郵政民営化のさらなる見直しが進行
──「局長会」のルーツは、明治時代にさかのぼります。自分の土地や建物を提供した地域の名士や地主たちが小規模局長のおこりで、民営化前まで「特定郵便局長」と呼ばれていました。「不転勤」(=異動がない)「選考任用」(=世襲など、一般の局員とは別枠で採用がおこなわれる)「自営局舎」(=局長が局舎を所有)の3本柱が脈々と受け継がれています。なぜ、この仕組みが今なお続いているかと言えば、その大きな理由が、政治と強く結びついているから。その「闇」を、宮崎さんは明らかにしていきます。
宮崎:「局長会」は熱心に政治活動をおこなっています。会社とは別の任意団体、という建付けになっているからできるわけですが、局長会が参院選の全国比例に立てた候補者が自民党内で何度もトップ当選するなど、自民党の強力な「集票組織」になっている。自分たちの声を代弁する議員を国会に送り込むと同時に、自民党に恩を売っているのです。そうやって得た政治力により、「既得権」のような仕組みを守ってきました。
──局長会は政治に働きかけることにより、郵政民営化とは「逆方向」の法改正を実現させています(2012年に郵政民営化法改正案が成立)。もともと郵政民営化には、<国営だった郵便局に民間のビジネス感覚を取り入れて経営を効率化し、質の高いサービスを提供する>狙いがありました。そうした理想からかけ離れた現状に、郵政民営化とは何だったのか、と思わずにはいられません。
宮崎:保険の不正営業の問題では、国民のために全国に郵便局網を張り巡らせているというのに、その維持費を稼ぐために顧客に不利益な契約を結ばせるという、本末転倒も甚だしいことが起きたのです。
2012年の郵政民営化法の改正では、郵便局の統廃合がより一層困難になるような制度変更がおこなわれました。今国会では、さらなる見直しが議論されようとしています。郵便局網を維持するために、政府が財政措置をすることなどを盛り込んだ法改正を、局長会が要望しているのです。郵便局は地域の暮らしを支え、公的な仕事をしているのだから認めてほしいという理屈だと思いますが、法改正が実現すれば「郵政民営化」の理念からは大きく逆行してしまうことになります。
郵政民営化の是非を論ずるのは簡単ではないですが、そもそもゴールへの道筋が明確ではないままスタートした上に、法改正などでゴール自体がたびたび動いているような印象を受けます。官とも民ともいえない状態のまま、郵政グループはいったいどこに向かっているのか。誰もわからなくなっているのではないかと取材を通じて感じました。