「夫の死を無駄にしないでほしい」
──「局長会」は任意団体なのに会社の人事権を実質的に握っていたり、ほぼ強制的に入会させられたり、公職選挙法違反が疑われるような選挙活動をしたり……。さまざまな問題を感じますが、そもそも郵政民営化のときに、「局長会」の仕組みは議論されなかったのでしょうか。
宮崎:郵政民営化の前に「郵政公社」という組織があり、その総裁だった生田正治さんが、実は「局長会」に関わる仕組みを見直そうとしていました。しかし後ろ盾だった小泉(純一郎)さんから安倍(晋三)さんに総理が代わり、総務大臣が菅(義偉)さんになったときに、生田さんは総裁を辞任しました。当時の報道によると、菅さんは、生田さんから「身を引かせていただきたいという趣旨の話があった」と説明しましたが、生田さんはこの発言を否定しており、実質的な更迭だったと見られています。これ以降、局長会に関わる改革は骨抜きにされたままです。
──「夫の死を無駄にしないでほしい」。郵便配達員だった夫を自殺で亡くし、労災認定と会社側の謝罪を求めて10年余り闘い続けた女性の言葉が、胸に迫ります。あれだけ騒いだ郵政民営化の現状を知るべきであると同時に、郵便局がどうあるべきかは、国民一人ひとりに直結する問題だと思いました。
宮崎:民営化後、経営の合理化が進まない中で、しわ寄せがいったのは現場です。この本を通じて、それぞれの現場で組織と対峙する一人ひとりの声が伝わったらと願っています。そして誰にとっても身近な郵便局がこれからどうあるべきかを、考えていただけたらと思います。
◆宮崎拓朗(みやざき・たくろう)
1980年生まれ。福岡県福岡市出身。京都大学総合人間学部卒。西日本新聞社北九州本社編集部デスク。2005年、西日本新聞社入社。長崎総局、社会部、東京支社報道部を経て、2018年に社会部遊軍に配属され日本郵政グループを巡る取材、報道を始める。「かんぽ生命不正販売問題を巡るキャンペーン報道」で第20回早稲田ジャーナリズム大賞、「全国郵便局長会による会社経費政治流用のスクープと関連報道」で第3回ジャーナリズムXアワードのZ賞、第3回調査報道大賞の優秀賞を受賞。
◆写真提供:新潮社(宮崎さん)
◆取材・文 砂田明子