フィリピンの指示役ら。左から今村磨人、渡辺優樹、藤田聖也の各被告(共同通信社)
「こいつら狂ってんな、ヤバいな」
すでに判決が言い渡されている実行役3名の公判では「永田被告に命じられ、野村被告がバールでAさんを多数回殴った」と、Aさんの死に直結する暴行を加えたのが野村被告であると認定されているが、当の野村被告は法廷でこれを否認し「他の実行役がやった」と繰り返した。
「永田が『ババア、金どこにあるんだ』と、ついでにバールで一発叩いて、僕が目撃したんだけど……そういう状況下で、脅しじゃないんだけど、拷問みたいな形で永田が来たわけ……それから2〜3人、地下から飛んできて、婆さんを3発叩いたんだけど……同調圧力、狂ってんなと、身の危険感じたんで……永田は3回殴ってんですよ。3回目は婆さんが、これはびっくりしたっていうか、三度目に殴った時、加藤が婆さんを押さえつけるんだけど、Aさんが加藤の左手か右手についてて、加藤が何度も婆さん叩いて意識失わせた」(被告人質問での証言)
Aさんをたびたび「婆さん」と呼ぶうえに証言そのものが分かりづらい。なぜか上半身がどんどんと右側に倒れてゆくため、口元がマイクから離れ、声が聞こえなくなる。休廷中に裁判長が「聞き取りづらいのでマスクを外してもらうことはできないか」と頼んだが、被告は「マスコミの方とかがいたりするんでぇ」と応じるそぶりはなく、小さい声でのモゴモゴとした証言は続いた。
「共犯者は僕が参加したというが、僕は一瞬加わっとこうと、暴力とか加えてないし、何にも盗ってないし、もらってないし、利益的なものもない」
という彼の分かりづらい証言を要約すれば“バールで殴ったのは永田被告”であり、“加藤・中西被告も暴行を加えた”のだという。「加藤と永田が家に侵入したとき、永田がAさんの頭、ドスンと踏みつけるように行って、地下行った。『ババア見てろ』と怒鳴られた」、「僕がソファに座ってると、中西とか『おー!』って言ってたり、金探してトイレの天井見たりしてた。加藤も2階に行ってウロチョロしてる。永田もバール持ってうろうろ……こいつら狂ってんな、ヤバいなと思った」などと放送禁止用語を交えながら、自分は何もしていないと述べるのだが、これは3人の実行役の証言とは全く食い違っていた。
(後編に続く)
◆取材・文/高橋ユキ(ノンフィクションライター)
【プロフィール】
高橋ユキ(たかはし・ゆき)/1974年、福岡県生まれ。ノンフィクションライター。2005年、女性4人の傍聴集団「霞っ子クラブ」を結成しブログを開設。以後、フリーライターに。主に刑事裁判を傍聴し、さまざまな媒体に記事を執筆している。『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』(小学館文庫)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』(小学館新書)など、事件取材や傍聴取材を元にした著作がある。