『命のバトンを受け取って…受け取って…』
Aさんを殴り、犯行途中で逃走。公判では「何もやっていない」と再三語っていた野村被告は、弁護人から被害者への思いを問われ、語り出した。
「被害者の遺族の方に対して申し訳ないって気持ちと、命は尊いものであるってことを伝えたいし……もう……で、あと、その遺族の方が、被害者の90年のバトンを受け取ったっていうのが、受け取って……受け取って……バトンを受け取って……簡単に言うとね! 命は尊いものであると」
最後までこうした調子だった野村被告は、実行役らの証言について「3人が口裏合わせをした」とも訴えていたが、判決で裁判長は「口裏合わせをするのであれば、3名全員がその供述を一致させるのが合理的であるが、3名の供述には必ずしも一致しない点も散見される」などとして、これを退けた。
「永田被告の供述内容は、被告人に指示してバールでAさんを叩かせたという自身の刑責軽減には全く繋がらない内容であり、被告人に刑責を擦り付ける目的でなされた口裏合わせの結果としては明らかに不自然であるし、少なくとも永田被告にはそのような口裏合わせのメリットは全くない」(判決より)
そしてバールでAさんを殴ったのは野村被告であると認定している。
「被告人自身が、バールによる多数回の殴打という、執拗かつ残忍でAさんの死に直結した暴行を行っている。被告人が殴打を行なったのは共犯者の指示によるものではあったものの、被告人は、共犯者から単に『やれ』と言われただけで、バールにより殴打する部位、殴打の回数や強度等は被告人においていかようにも決められる状態であったのに、突如として、身体の枢要部である左背部等をバールで6回から8回ほど相当の強度で叩いたのであり、これらの殴打については被告人が主体的に行なったといえる。このような経過からすれば、Aさんが死亡するに至ったことについて被告人が負うべき責任は重大で、共犯者からの指示があったことが被告人の責任を減ずる程度にも限度がある」(同前)
最後に、3人の実行役に罪をなすりつけようとしていたことについても「被告人は、バールによる暴行を全て共犯者の責任にしようとして、公判廷で虚偽の事実を述べていることなどからすれば、被告人が事件に向き合い、反省しているとは到底いえない」と厳しい指摘がなされていた。
野村被告は控訴している。
◆取材・文/高橋ユキ(ノンフィクションライター)
【プロフィール】
高橋ユキ(たかはし・ゆき)/1974年、福岡県生まれ。ノンフィクションライター。2005年、女性4人の傍聴集団「霞っ子クラブ」を結成しブログを開設。以後、フリーライターに。主に刑事裁判を傍聴し、さまざまな媒体に記事を執筆している。『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』(小学館文庫)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』(小学館新書)など、事件取材や傍聴取材を元にした著作がある。