シジュウカラは身近な鳥。さっきも小学館の裏にいた
2022年8月にストックホルムで開かれた国際行動生態学会で基調講演を依頼されたとき、動物言語学という新領域を提唱して大きな反響があった。2023年4月には東京大学に鈴木さんの動物言語学の研究室が世界で初めてできた。海外のメディアや他分野の研究者からの反響も大きく、鈴木さんの研究を軸に世界が大きく動きだしている。
「言葉は人間にしかない、っていう先入観がぼくらの世界を狭めているところがあると思う。動物の言葉がわかると楽しいんですよ」
インタビュー取材の前に、東京・神田神保町の小学館の近くで写真撮影をした。インタビューの途中で、「シジュウカラって実はめちゃくちゃ身近な鳥なんですよ。さっきも小学館の裏にいたもん」と鈴木さんに言われ、まったく気づいていなかった私は愕然とした。鈴木さんの都内の実家にもシジュウカラはやってくるそう。巣箱をかけて観察するうちに、ご両親もある程度、シジュウカラの言葉がわかるようになったそうだ。
「東京にもいるし、山の、標高1500メートルぐらいのところまでいます。北海道から沖縄までいますし、ヨーロッパにもいる。こんなに身近なのに、誰も彼らの言葉を知らない。ひょっとしたら姿にも気づいてないんじゃないの?と思います。ぼくには彼らの鳴き声が常に意味として、言葉として入ってきます。この豊かな世界を、ほかの人にも知ってほしいと書いた本が『僕鳥』です。鳥は飛べるけど、人間は飛べない。鳥は紫外線まで見えるけど、人間には見えない。世界の見え方も、生き方も違う他者を理解しようと試みることがすごく大切になる時代がくるんじゃないかと思うんです」
本の巻末にシジュウカラの鳴き声の意味とQRコードが載っていて、アクセスすると、さまざまな声を聞くことができる。
【プロフィール】
鈴木俊貴(すずき・としたか)/東京大学准教授。動物言語学者。1983年東京都生まれ。日本学術振興会特別研究員SPD、京都大学白眉センター特定助教などを経て現職。文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本生態学会宮地賞、日本動物行動学会賞、Worℓd OMOSIROI Awardなど受賞多数。動物の言葉を解き明かす新しい学問、「動物言語学」を創設した。本書が初の単著となる。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2025年3月13日号