作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』
ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』をお届けする(第1447回)。
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さて、今回は前回に引き続いて一九二〇年(大正9)に起きた尼港事件、ロシア赤軍(パルチザン)による日本人大虐殺事件を分析する予定だったが、ここで世間で話題になったフジテレビの問題を取り上げたい。
まさか、「歴史」とはなんの関係も無いと考える人はいないだろうが、それでもフジテレビ問題と尼港事件にいったいなんの関係があるのだろうかと思う向きがほとんどだろう。しかし、歴史はすべてつながっているのである。現在起こっていることも、十年前、百年前、千年前に原因があることは珍しくない。今回も密接とまでは言えないが、二つの問題はリンクする部分がある。
そしてもう一つ。二〇二五年の新年早々に述べたように、私は歴史家の役割とは、原発をどう扱ってゆくかなどの先が見えにくい問題について、これまでの歴史を参考に提言することだと考える。だから今回は、「フジテレビを立ち直らせる処方箋」を示したい。正確に言えば、「中居正広問題」によって露呈され失われたフジテレビへの信頼感をどのようにして取り戻すのか?
ただし、私はかつてマスコミ評論もやっていたので報道部門には専門的な知識もあるが芸能部門は必ずしもそうでは無いので、ここはフジ・メディア・ホールディングスの子会社であるフジテレビ(株式会社フジテレビジョン)の報道部門を立ち直らせる処方箋、ということでご理解いただきたい。それは首脳陣が一斉に退陣し若手と交代するなどという単純なものでは無い。
要するに、フジテレビの報道部門が完全に、言葉を変えて言えば公正な報道が実現可能なようにリニューアルされたことを視聴者すべてに認識させればいいわけだ。そこで突破口になるのが、じつはジャニーズ問題である。これも正確に言えば「ジャニー喜多川による大量性加害問題」と言うべきだが、この問題について、じつは日本のテレビマスコミはまるで反省していない。どういうことか述べる前に、私も反省しておこう。
私もかつてマスコミ評論をやっていた。しかし、ジャニーズ問題は一度も取り上げたことはない。私は基本的に地上波テレビに依存していた人間では無いので、取り上げようと思えばできたはずなのだが、第一にそこまで深刻だと思わなかったし芸能は専門外だからいずれ詳しい人間がきちんと言及するだろうと甘く見て、結局は取り上げなかった。そのため、大変みっともない話だがイギリスの公共放送BBCが報道するまで見逃すという結果に終わった。その点は深く反省し、今後の糧としたい。
そういう意味で言えば一種の開き直りと言われるかもしれないが、いわゆる地上波のテレビマスコミはこの問題の内容を熟知し被害の実態も知っていたはずなのに、なぜ積極的に報道し是正しようとしなかったのか? おわかりだろう、この点現在のフジテレビとまったく同じなのである。その理由だが、最大の問題は日本のとくに民放においては報道部門と芸能部門が会社のなかで同じ役員が統括していることだ。
たとえば、報道部門の記者がこの問題に義憤を感じ積極的にニュース番組で取り上げようとしても、同じ会社の芸能部門の社員がそれを察知し共通の役員に訴えて差し止めにするということが可能だったからである。だからこそ、そういう圧力がまったくかからないBBCがストレートに報道するまで、この問題は表面化しなかったのである。