テレビは「敵に学ぶ」べし
さて、ここまでの三項目については私ならずとも現代のマスコミ事情に詳しい人間にとってはある程度容易に思いつくアイデアかもしれない。そこで、少なくとも私の知る限り、誰も述べていないもう一つのアイデアをここで示そう。それはひと口に語るのがなかなか難しいのだが、スポンサーのCMを番組内に挿入するやり方を根本的に変革することである。
言うまでも無く、現在の民放の営業システムはスポンサーから支払われるCMの広告料によって成り立っている。ただしここには重大な問題があり、たとえば薬品会社のスポンサーがついているときは、ニュース番組では薬害の問題を語りにくくなるなどの弊害がある。そこでそうした摩擦を防ぐためもあって、電通などの大手広告代理店がテレビ局の営業と各企業の間に立ってさまざまな調整をしている。しかし、逆にその代理店の意向が「圧力」となって番組の内容に「影響」を与えることもあるやに聞いている。
ここで逆に考えてみよう。なぜインターネット、たとえばYouTubeのニュースチャンネルなどではそうした話を聞かないのだろうか。それはCMがランダムにインサートされるからである。契約の詳しい内容は知らないが、私のYouTubeチャンネル『井沢元彦の逆説チャンネル』でも放映時間がランダムな形でさまざまな内容のCMが本編動画にインサートされてくる。
これならばスポンサーは番組内容に「圧力」をかけようが無いし、本編動画の制作者もスポンサーに「忖度」する必要が無くなる。ある意味で大変優れたシステムであるが、どうせなら「敵に学ぶ」ことにしたらどうか。つまり、分社化した新会社ではこの「ランダムCMインサートシステム」を取り入れたらどうか、ということだ。
もっとも、サルマネするというわけにはいかない。YouTubeの場合は突然入ってきたCMを見たくない場合は、数秒間見た後に自分でスキップすることができるが、生放送であるニュース番組では挿入のタイミングが難しいし、視聴者側にとっても面倒くさいだろう。そこでニュース番組と同じ固定のCM枠は維持するが、そこにどんなCMが飛び込むか(スポンサー側から言えば挿入させてもらえるか)はAIがランダムに選ぶという形にすればいい。
この方法のメリットはスポンサーに忖度しなくても済むことと、もう一つ企業と報道機関の間に広告代理店を入れる必要が無くなるということだ。そうすれば経費節減にもなるし、「圧力」も防げる。まさに一石二鳥の措置ではないだろうか。
まとめれば、
(1)報道部門と芸能部門を切り離して分社化する
(2)記者クラブから脱退し、この制度の破壊を促進する
(3)官僚の自社ポストへの天下りを拒否する
(4)営業面で「ランダムCMインサートシステム」を採用し広告代理店の影響を排除する
以上である。こういうことを言うとすぐに「不可能だ」などと口にする人間が出てくるが、私は「太陽を西から上げろ」と言っているのでは無い。そういうこととは違い、これは個人や組織が決断すればできることである。だから江戸時代に誰もが改革不能と考えていた米沢藩上杉家を大改革した上杉鷹山は、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も」つまり「やればできる、やらねばできない何事も」と言ったあと、最後に「成らぬは人の為さぬなりけり」つまり、「できないのでは無い、やらないのだ」とつけ加えたのである。