エンゼルス前監督のフィル・ネビン(左)が水原一平(右)のスキャンダルについて話した(時事通信)
ドジャース・大谷翔平(30)の口座から不正送金したとして、禁錮4年9か月、賠償金約1700万ドル(約26億円)の支払いを言い渡された元通訳・水原一平被告(40)。日本ハムで大谷の信頼を得て渡米した水原はなぜギャンブルに手を染め、“相棒”を裏切ったのか──。その裏にはエンゼルス、そしてMLB(米大リーグ機構)全体を取り巻く問題があった。ノンフィクションライターの水谷竹秀氏がレポートする。(文中敬称略)【前後編の後編。前編から読む】
MLBが賭博を「推進」
水原がスポーツ賭博に手を出したのは、米国で2018年にスポーツ賭博の合法化が進んだ3年後のことだった。
それまで米国では一部地域を除き、違法な胴元やサイトを通じてしかスポーツには賭けられなかった。しかし、連邦最高裁がスポーツ賭博を規制する連邦法を違憲と判断したことで、全国38州まで合法化が広がり、スポーツ賭博はスマホで手軽にできるようになった。
スポーツ界では、賭博を推進する動きが加速した。MLBは翌2019年、『ドラフト・キングス』や『ファン・デュエル』など合法な大手スポーツ賭博運営会社と次々と提携し、宣伝や広告に力を入れた。水原は地元メディアの取材に対し、この『ドラフト・キングス』も使っていたからボウヤーが合法な胴元だと思っていたと答えている。
USAトゥデイ紙でMLBを担当するガブリエル・ラックス記者が指摘する。
「提携によって、多くの試合放送中にオッズやCMが流されるようになった。この影響で中継の視聴率は大幅にアップし、MLBはそのスポンサー料と合わせて莫大な収益を得ているとみられる。合法化されて身近にもなったスポーツ賭博は選手の間でも広まっているのだろう」
それはルールに反した賭博行為にもつながる。水原の事件発覚から約2か月後、MLBは昨年6月、自チームをめぐる野球賭博に関与したとしてサンディエゴ・パドレスの選手を永久追放。他チームについて野球賭博をした別の4選手を1年間の出場停止にすると発表した。
スポーツ社会学を専門にするテネシー大学のアダム・ラブ准教授が言う。
「リーグ側がギャンブルを推進しているにもかかわらず、選手やチームスタッフには野球賭博を禁止しなくてはならない。その矛盾した状況に加え、スポーツ賭博がこれだけ一般化されれば、問題が多発する可能性はあると考えるべきだろう」
リスクをはらんでいるからこそ、MLBは規約で、春季キャンプ前にスポーツ賭博について研修を実施するよう各球団に求めている。ならば、エンゼルスは研修を実施していたのか。そこに水原は参加していたのか。
エンゼルスはこれまで、水原のスキャンダルについて何のコメントも発表していない。私はフレッチャーへの接触を試みたのと同じ昨年10月に、別のエンゼルス関係者に会うため、現地で車を走らせていた。