K2登頂の瞬間。同行者はピンボケしていて、構図も不完全だが、それだけに迫り来る
8000メートル峰は酸素の量が地上の約3分の1しかなく、気温も当たり前のように零下20、30度まで下がる。極端に行動が制限される世界ゆえ、登山者は荷物をグラム単位で切り詰めるものだ。そんな世界に石川は1キロ以上にもなる中判カメラを携行し続けたのだ。石川は笑う。
「カメラを捨てたいな、みたいな気持ちになることもある。無茶苦茶苦しいし、俺はいったい何をやってんだ、バカかみたいな。そのたびに俺は他の誰もやってないことをやるために来たんだろって思い直していました」
石川が使っているフィルムはわずか10枚撮り。しかも極寒地ゆえフィルム交換もままならない。石川は、デジカメのように連続で何枚もシャッターを切ることはない。
「2枚続けて撮ることはあるけど、3枚は絶対にない。中判だと念のためもう1枚みたいな撮り方はできないんです。目をつぶっちゃってたら、それでもいいかなって。そのほうが一期一会な感じがあるじゃないですか」
石川が写真に求めるものは「言葉以前にあるもの」だという。
「表紙の写真も言葉だと説明しづらい。山頂のちょっと下あたりで、何だろうと思いながらシャッターを切った写真というだけで」