2025シーズン、井上一樹監督のもと中日の復権はなるか(時事通信フォト)
井上一樹・新監督のもと2025年シーズン開幕を迎える中日。そのドラゴンズに50年以上も熱い声援を送り続ける大学教授がいる。新書『人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた』の著者・富坂聰氏(拓殖大学海外事情研究所教授)は、物心ついた頃からドラゴンズにのめり込んだ。富坂氏が綴るシリーズの第2回は、元祖ミスタードラゴンズ・高木守道選手や、巨人V10を阻止した与那嶺要・監督とライバル・巨人との因縁について綴る(シリーズ第2回。第1回から読む)。
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ところで高木(守道)、ジャイアンツとの間には浅からぬ因縁も抱えていた。相手は「悪太郎」の異名を持つ巨人のエース・堀内恒夫投手だ。
高木はなんと堀内から顔面デッドボールを喰らっている。
顔面だ。悪質だ。
七色の変化球を操ると評された堀内だから、けっして剛速球じゃない。とはいえプロの球だ。顔面にデッドボールはさすがに一大事だ。復帰を危ぶむ声もあった。しかし高木は、不死鳥のように蘇った。美しい復活劇だが、ストーリーはここで終わりではなかった。
なんと悪太郎、その復帰した不倒翁にまたしてもボールをぶつけやがった。しかも頭部に。見事な無法者っぷりで、マカロニウエスタンの悪役もびっくりだ。
しかし、時は昭和。「ジャイアンツとの深い因縁」を背負ってこそドラ戦士。というわけで、この死球によっていみじくも高木は「真のミスタードラゴンズ」となる。
ジャイアンツへの復讐劇、これこそドラファンの大好物だ。
幼心に響いた与那嶺要の「ざまあみろ!」
水原茂監督もそうだが、インパクトの点では何といっても与那嶺要監督だ。
選手時代の与那嶺は、ジャイアンツで「打撃の神様」と呼ばれた川上哲治選手と激しく首位打者を争うライバルだった。
ハワイ生まれの日系人、与那嶺は心優しき野球人だった。有名なエピソードがある。王貞治選手が少年だった頃の話だ。貧しくて本物のボールを買えなかった王少年がゴムボールを持って球場に行き、ジャイアンツの選手にサインをお願いすると、ほとんどの選手は王少年を無視して通り過ぎた。憧れのスターたちが次々と前を素通りするなか、与那嶺だけがただ一人、王少年のゴムボールに快くサインをしてくれたという。
その優しい与那嶺を戦力外として放出したのは、巨人の新監督となった川上だった。