巨人のV10を阻止して胴上げされる与那嶺要監督(*credit)

巨人のV10を阻止して胴上げされる与那嶺要監督(時事通信フォト)

 たしかに往年の打力は失われつつあったが、「来季の構想にない」と通告された与那嶺は怒った。当たり前だ。これ、どう考えたって嫉妬だ。打撃の神様、みっともない。

 だが、捨てる神あれば拾う神あり。手を差し伸べたのが中日だ。

 ドラゴンズにやってきた与那嶺は、複雑な感情を抱えながら巨人戦に出場。川上の目の前でホームランをかっ飛ばし、ダイヤモンドを一周しながら巨人ベンチの前を過ぎるときに、「ざまあみろ!」と一言浴びせたという。

 与那嶺はハワイの日系二世だから、「zamamiro!」か。

 あー、すっきりした。もちろん、「目には目を」ってだけじゃダメだってことは知っている。寛大さが必要だって。でも少年時代の私には、敗戦国・日本に「以徳報怨」(徳を以て怨みに報いる=報復はしない)との方針を示した蒋介石のような余裕などなかった。

 与那嶺ストーリーはそれでいい。幼心にガツンと響いたのだから。

ドラファン少年の“あるある”

 本来は「温和な人柄」(王貞治の評)という与那嶺の復讐劇は、私の父のお気に入りで、少年時代に何百回と聞かされたような気がする。途中、母親が「その話、何百回も聞いたよ」とやんわり遮ろうとしても、話し始めた父の突進を止められたためしはない。最後には決まって「ざまあみろ」と与那嶺のセリフを吐いてニカッと破顔する。

 この体験、ドラファン少年の“あるある”のような気がする。

 おかげで判官贔屓というか、長いものに巻かれるなというか、ごまめの歯ぎしりというか、結果として「鶏口となるも牛後となるなかれ」的な精神が徹底的に叩きこまれてしまい、その後の人生は少々生きづらかった。

 だって、キャンディーズ全盛時代。どう考えても真ん中で踊って歌っていたランちゃんを応援したかったのに、「オレはやっぱり、ミキちゃんだてー」と、うっかり言ってしまっている自分がいるのだ。

 いや、いいんだよ。ただのモテない田舎の中学生なんだから、ランちゃんでもミキちゃんでも、よく分かってないんだから。ただ誰もが好きというのは安易な「何か」であって、流されてはいけない「何か」と思い込んで「嫌う」のはちょっと違うのかと迷った。

 でも結局、それで構わないのだ。その「何か」とは、衆愚だからだ。

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