レビー小体型認知症が出始めたころ デイサービスにも通い始めた
慌てて探しに出ました。邦子が出かけてからどのくらい経っているのかわからない。もしかしたら、どこか遠くまで行ってしまっているかもしれない。恐ろしくてたまらなかった。だけど家を出て、角をひとつ曲がると、向こうからやってくる邦子の姿が見えた」
大げさのように聞こえるかもしれないが、小山さんはこれを「奇跡」だという。
「だって、道は先に行けばいくほど、幾重にも別れて、どんどん広がっていって、角ひとつ間違えると一生会えないかもしれないんですよ。それなのに、邦子はどこまで行ったのかわからないけど、ちゃんと帰ってきてくれた」
しかし、こうした「事件」が増えてくると、自宅での生活は危うい。3年ほど前、小山さんは妻を認知症グループホームに入居させることを決心した。
「症状はその後も進行し、今ではベッドから起き上がることも減りました。それでも、邦子がいてくれるおかげで、私は今でも幸せだし、邦子が病気になったことで成長させてもらったと感じています。きれいごとだけじゃないし、これからも大変なことがあるかもしれないけれど、邦子との人生はまだ続きます」
【ここはどこあなたはだあれ大花野】
大花野(おおはなの)は秋の季語だ。野に草花が生い茂げる様子だが、季節は秋だ。これから冬がやってくる。小山さんの今現在の偽らない気持ちだ。
彼は、今も定期的に介護施設で利用者を相手にした、俳句の講義を行っている。妻・邦子さんとの日々の経験が、小山さんをそうした活動に駆り立てる。その集大成とも言えるのが『大花野』だ。現在、邦子さんは認知症グループホームで生活している。面会に行くたびに、新たな発見があるという。『大花野』の続編出版も近いのかもしれない。
◆取材・文/末並俊司(ジャーナリスト)