「麻布台ヒルズ ギャラリー」の個展には大勢の人が詰めかけている
発売が発表されるや否や賛否両論を呼んだ「10万円のうまい棒」。安いでおなじみの国民的駄菓子はなぜそんな値段で発売されたのか。つくった男は何者なのか。真相を聞くべく本人にインタビューする。(文中敬称略)【前後編の前編】
『うまい棒 げんだいびじゅつ味』はシルバーのパッケージこそ特徴的だが、普通に売られている「うまい棒」に見える。これを頑丈なアクリルケースに収めた鑑賞用の作品である。価格は長く店頭で親しまれてきた10円(現在は15円)の1万倍となる10万円(税別)だ。50本限定で、展覧会の初日に完売した。
つくったのは現代美術家の松山智一(48)。展覧会開催に合わせて公開されたため、「話題作りではないか」との声もあった。だが、松山は「これぞ僕が表現したかった現代美術の核なんです」と語る。
「僕も子供の頃、小遣いをもらうと駄菓子屋さんでうまい棒を買いました。うまい棒は色々な味がある。どの味を選ぶかで、その子なりの個性や嗜好を表現しているんです。『げんだいびじゅつ味』がニュースになった時、ネットのコメント欄にはうまい棒に関するそれぞれの原体験が寄せられていた。賛否あると思いますが、そこに10万円以上の価値が生まれていると感じた。これぞ“現代美術”です」(以下、「」のコメントは松山)
松山の言葉には“社会通念上の価値の正体とは何か”という問いがある。
「破れたキャンバスや、ただ真っ白いだけの絵画。そうした一見無価値と思われるような作品が現代美術にはあります。そこに多くの人、社会が価値を認め合うことにこそ価値があるとも言える」
そうした思考に至るまでには、彼の生い立ちが深く関係している。
「岐阜県の飛騨高山の田舎町で生まれ育ちました。小学校3年生の時に父親が突然“牧師になるためにアメリカで学ぶ”と宣言し、家族全員で渡米することになったのです。1987年のことでした」