星野と木俣が出演した「ご当地CM」
「名古屋ファースト」とドラゴンズの選手の話に戻そう。
やっぱり触れておきたいのはテレビCMだ。中京圏ではなかなか「個性派」揃いだ。
名古屋人は、ローカルCMの話題が大好物だ。ドラゴンズ関係では、真っ先に名前が挙がるのが「永田や佛壇店」だ。
扱っているのが仏壇や仏具だけに、全体のトーンは念仏調だ。「ナガタヤダー、ナガタヤダー」と、BGM風に連呼されるお馴染みのCM(あくまで中京圏では)。
私が子供の頃に観たバージョンでは、何と星野仙一と木俣達彦の黄金バッテリーが、アニメーションで登場する。
アニメといっても黎明期。それぞれの顔の特徴をつかんだキャラクターという以外に褒めるところのない、ただの“動く絵”だ。ボールを投げる星野は、まるで首の据わっていない赤ちゃんみたいに、クニャクニャと頭と体を揺らしながら球を投げる。
そこで一言、
星野「(仏壇が)ほしーのー」
木俣「きまったー」
こんなアニメーションとともに育った私は、日本のアニメが数十年後に、アジアの枠を超えて世界をリードするコンテンツになるなんて、想像もできなかった。
ソフトパワーだ。提唱者のジョセフ・ナイ教授も真っ青だ。
名古屋のCMといえば、「店員は不愛想だが、カメラは安い!」のフレーズで知られる「アサヒドーカメラ」も有名だ。これほどやりたい放題のCMを流し続けたクライアントも珍しいはずなので、少し紹介させてほしーの。
たとえば、タンゴの曲調に合わせて「今(こん)・金(きん)・中(ちゅう)・夕(ゆう)」とただ歌い続けるだけのCMだ。意味は理解できなくとも、頭からは離れない。「今週、金曜日の、中日新聞の、夕刊(の広告)を見て」という呼びかけである。
いまでは全国区になった「コメ兵」のCMも、ただ「いらんモノは、コメ兵へ売ろう」と大声で叫ぶだけだった。このフレーズは当時の名古屋人ならみんな覚えている。CMが流れるたびに「おい、女房も買ってくれるのか」という電話が、コメ兵の店舗にかかってくるというのもお約束だった。
いかにも昭和っぽいエピソードだが、時代という要素を除いても、濃すぎる風土だ。つまり、ドラゴンズで活躍してファンに愛された選手たちは、こうした「名古屋ファースト文化」にどっぷりつかって生きてゆくことになる。
もっとも、オロナミンCやオートバックスのCMに出ていた巨人の選手たちが、イメージ戦略に成功していたかといわれれば、そうではないのかもしれないが……。
(第17回に続く)
※『人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた』より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
富坂聰(とみさか・さとし)/1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授、ジャーナリスト。北京大学中文系中退。1994年、『龍の伝人たち』で21世紀国際ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。『中国の地下経済』『中国の論点』『トランプVS習近平』など、中国問題に関する著作多数。物心ついた頃から家族の影響で中日ファンに。還暦を迎え、ドラゴンズに眠る“いじられキャラ”としての潜在的ポテンシャルを伝えるという使命に目覚めた。