公的年金は「社会的扶養」「国民の共同連帯」「所得再分配機能」(写真提供/イメージマート)
5年に一度おこなわれている年金制度改革の議論において、基礎年金(国民年金)の底上げ案はほぼ確定と言われてきた。厚生年金減額で資金をまかない2028年度から底上げを始める見通しだったが、2031年度以降に先送りする案が浮上と報じられた。とはいえ、就職氷河期世代を支えるためにも底上げは必要という声もあり、議論は継続中だ。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、まるで借りパクのようなやり口で資金を移動させる「年金」について考えた。
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【1】社会的扶養
【2】国民の共同連帯
【3】所得再分配機能
日本政府による公的年金の考え方である。社会科(公民など)でも習う通り、これを引っくるめて「相互扶助」という理念になる。
年金は自分が納めた分にプラスされて戻って来るとか、基礎部分の国民年金(基礎年金)に上乗せされる形で厚生年金があり別であるという認識は合っているようで違う。胴元(この表現をあえて使う)である日本政府や所轄官庁もまた「相互扶助」としている。
4月、自民党は国会提出が長く先送りとなっている年金制度改革法案について、国民年金の底上げとそれに伴う財源を厚生年金の活用で賄う案を提示した。受給金額の少ない国民年金のみの受給者の給付水準を上げるためにサラリーマン等の厚生年金の積立金を活用することになるが、自民党内でも国民年金の給付水準を上げるために厚生年金を使うことの理解は得られるのか、それによって厚生年金の給付が下げられることに納得してもらえるのかなど、10日の話し合いもまとまらず終えた。
つまるところ「国民年金のみの高齢者の受給額を上げるために厚生年金被保険者である現役の支払い分を活用する」ということになる。もちろんこの案が通るならの話だが、すでに自民党内でこのような案を前提に調整しているという現実がある。
やばい、人口ピラミッドや少子化という現実の数を見れば明らかな話ではあるが、公的年金制度の胴元はそうとう厳しい立場に追い込まれている。そうとうな反発が予想されるため「今年の夏の参院選後に」という意見もある。しかし後述するが自民党は2000年代に年金問題で大敗、一度下野しているため忌避感は強いだろう。公明党もそうか。
一部報道と野党の試算によれば国民年金の受給額を引き上げるために厚生年金の積立金を活用すると厚生年金分は月額で7000円ほどの減額(2040年度見通し)となる。年間では単純計算だが8万4000円の減額、あくまで試算であり提出前の段階とはいえ、年金者になってこの減額は大きい。また、いわゆるサラリーマンなどの厚生年金加入者が国民年金のみの受給者に対する積立金の流用に納得するかどうか。