電車遅延について駅ホームで怒りすぎる人たちがいる(写真提供/イメージマート)
自分が感じているストレスとどう向き合うかは、人それぞれだろうが、反撃されないと分かっている相手に憤懣をぶつける人たちがいる。駅で、街で、職場で遭遇させられる怒りすぎる人たちのやつあたりに振り回される人たちの苦悩を、ライターの宮添優氏がレポートする。
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「金とってるんだから、もう少し丁寧に説明しろよ! 謝れよ!」
通勤客でごった返す朝の駅ホーム上に響き渡った怒声に、周囲の人は一瞬だけ「何事か」といった様子で顔を向けた。ところが、多くの人の顔は「ああ、そういう人か」といった、呆れているとも、無関心とも取れる微妙な表情を浮かべ、視線を落とすばかり。それでも、怒声の主の怒りは収まらない。
「大体、ケチってホームドア未設置だから事故るんだろうがよ! こんだけ遅れてんだから払い戻せよ!」
怒声の主は、多少、髪の薄くなった中年サラリーマン。顔を真っ赤にして口角から泡を飛ばしているが、その相手はホーム上にいた、朝の混雑時間帯のみに配置されるアルバイトとみられる若い男性駅員だ。
この日は人身事故が発生したため、相互乗り入れをする別路線の電車のダイヤも大幅に乱れていた。時刻表通りに来ない電車への厳しさはおそらく日本人が一番だろうが、人身事故とあれば仕方がない。しかし、やっと来た電車も満員に次ぐ満員で、乗りきれない客がホーム上に溢れ出してくると、男性は最初、周囲の客とぶつかるなどしてトラブルになっていた。近くにいたという団体職員の女性が呆れながらいう。
「みんな電車が遅れてイライラしていたのに、男の人がクソとか、だるいとかブツブツ言い始めて、近くを通る人にわざとぶつかっていたんです。それからトラブルになり、今度は駅員さんに言いがかりをつけ始めました。みんなイライラしていたのに、男の人のせいで余計イライラして。次に来た電車に強引に乗り込んで行きましたが、その後、他の方が通報したらしく、警察が来ていました。怒鳴られていた駅員さんは多分学生さんくらいの年齢のアルバイト。人身事故で遅れているのに、文句を言たってしょうがないじゃない」(団体職員の女性)
筆者もこの一部を目撃していたため、それから数時間は非常に嫌な気持ちで過ごす羽目になったと同時に、若い駅員が気の毒で仕方なかった。人身事故による遅延は、若い駅員が注意していれば防げたものではないし、プラットホームからの転落を防ぐドアなどが当駅に未設置だったのも、若い駅員には関係のないことだ。むしろ、未設置だったがために駅員が設置された、という顛末がある。