指示役の土井淑雄
「私も騙された」
私はAへの取材を重ねるなかで遅ればせながら事件への興味が高まり、昨年12月から獄中の主犯メンバーたちと手紙のやり取りを試みた。
カミンスカスには関係者を通じて、本人に往復書簡による取材希望の旨を伝えてもらった。
カミンスカスが「吉瀬美智子の写真がほしい」と望み、私が写真集を差し入れると「快諾」となった。10通の返事が届き、現在もやり取りが続く。
私からの手紙はAから聞いた詐欺に関わる現場の状況などを尋ねる内容だったが、返信では「Aのことは知らない。行動は共にしていない」とそもそもの前提が食い違った。手紙には毎回、“自分は無罪だ”といった恨み節が綴られている。
報道等ではカミンスカスは実行役リーダーとして積水ハウスとの交渉を担い、“偽の地主”として用意された羽毛田正美らの動きを差配したとされる。しかし、手紙でそうした事件の構図を真っ向から否定した。
2024年12月19日消印のカミンスカスの手紙では、自身も指示役の土井から、羽毛田が本当の地主であると信じ込まされていたのだと主張。そのうえで、計画を立案した内田が地面師グループ内で、〈「小山は全部知っててやっている」と話していたらしい〉と綴り、こう続けた。
〈私は騙されてまんまと積水から金を奪い取ってしまう役割をさせられました。勿論私は奪い取った金はさわった事も無いし、1円も受け取っていません。私が受け取った金はイクタホールディングス(中間業者)からの1億円だけです〉(括弧内は筆者の補足、以下同)
「騙された」と主張するのであれば、事件の構図はどのようなものだったというのか。私がそう問うと返信にはこうあった。
〈私からすると物件の元付である「エマイユのB(原文では実名、以下同)」が逮捕されてない事。Bの調書も出てない事。(略)検察警察とBの間で司法取引をしたとしか考えられない〉
「エマイユ」とは法人登記簿上は銀座のアパレル会社だが実態は不明。Bは前科もある詐欺師のひとりだ。前出のAも何度か会っているという。
「Bは計画を立案した内田側のグループの人間で、カミンスカスが積水に接触するずっと前から『客づけ(不動産の買い手を見つける役割)』を必死にやっていた人物。
私は実際にその場面は目撃していないが、舞台になった『海喜館』を担保に関西の業者から数億円の融資を受けていたはず。私の警察の取り調べの時もBの名前は上がったが、積水の詐欺構成を取り調べるうえでは注視されていなかった」
カミンスカスはそのBが事件を主導したと主張しており、自身が「内覧会」と称して海喜館内に侵入して中間業者と積水社員を案内した際のことも手紙でこう振り返った(2025年4月10日消印)。
〈Bからはもう1年近く前から空けていると聞いていたので中を見るとゴミだらけだったので土足で約2時間程内覧しました〉とし、現場にやってきた地主役の羽毛田について〈なりすましだったと今思うとゾッとします〉と綴るのだ。