◆病院からの「拷問」に耐えかねて
エステラは、病院の対応を「拷問」と呼んだ。彼女は娘が入院してからの4か月の日々を、早口で語り出した。
「あなたの娘さんは、どうしていつも泣いているの?」
娘の病室に入ると、エステラは、看護師にそう言われた。障害者の表現を理解できない看護師に、「泣いてなんかいないわ、話をしているのよ!」と、母親は怒鳴りつけた。娘の感情表現に疎い医師や看護師は、生え始めてきた陰毛を強引に剃ったり、「アーアー」と嫌がる少女の体に、無理やり注射を刺したりしたという。出血多量による輸血、腎不全による人工透析、胃ろうによる栄養補給と、これまで経験したことのない恐怖を少女は味わった。
彼女は携帯のロックを解除し、メディアには公開しなかった数本の動画を私に見せた。入院直後から死亡する前日までの体調変化を示したものだった。
「はー、はっはっはっは!」
祖父が、転ぶ振りをしながらアンドレアの病室に入ると、彼女は、口を大きく開いて笑い転げていた。入院したばかりの頃の画像だった。傾いたリクライニングベッドに上半身を起こし、目線は人間の動く方向を追っている。
だが、2か月後、体調の衰えは隠せなかった。少女は、病室の戸の開け閉めの音に身体がビクッと反応し、手はぶるぶると震えている。眼球も左右に動き続け、視点が定まらない。
「娘は、医師や看護師が部屋に来て、治療されることを恐れていました」
身体中に合併症が出てきた10月3日、もはや声も出せず、目の動きはさらに朦朧としてきた。熱は40℃。ビデオに映る少女の口からは、胃ろうによる食物の黄色い液体が逆流し、ゴホゴホとうまく吐き出せずに苦しんでいる。
なぜ、撮影をしているのかといえば、エステラは、この「延命治療」に苦しむ娘の姿をガリシア予審裁判所に提示し、「尊厳死」に向けての許可をすぐにも得たかったからだ。病状の悪化が次第に進行する中で、夫婦は、未成年者には稀な扱いとなるセデーションの適用を検討する。娘の死への選択を、親が代理で決定しようとした。