遺伝子と体質の相関関係をひもとく短期連載の最終回は、私たちを蝕む病気とその対策について。弱点を知っておけば、体の不調も怖くない。長年、日本人の「遺伝子」と「体質」を研究してきた予防医学の第一人者である内科医・奥田昌子さんが解説する。【短期集中連載・第3回(最終回)。第1回から読む】
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世界の人々は暮らす地域の食生活と気候風土に適応して、それぞれ異なる遺伝子を持っています。
けれども、そのせいで、たとえば150〜400年前にアフリカからアメリカに奴隷として連れてこられた人たちのように、突然、遠く離れた土地に移住すると、新しい環境に適応できず、それまでは発症しなかった病気に苦しめられることがあります。
その例がビタミンD不足です。アメリカ人は食品からビタミンDを摂取していますが、アフリカ人は、日差しの強いアフリカで紫外線を浴びて体内でビタミンDを合成していました。しかしアメリカは紫外線が弱いうえに、アフリカ人は食品からビタミンDを摂取する力があまり発達していません。そのため、アメリカではビタミンDが不足してしまいます。
また、ずっと同じ地域に住んでいても、近代化によって生活が大きく変化すれば、昔は生き延びるのに都合がよかった遺伝子が、やっかいなものになることもあります。
そのひとつの例に胃の内容物が食道に逆流して起こる、逆流性食道炎があります。逆流性食道炎の発生数は過去20年間で5倍以上増え、いまでは成人の10〜20%が発症していると推定されています。
それには日本人の胃の形がかかわっています。日本人は欧米人とくらべて縦に長い、袋のような胃を持っているので、硬い穀物や食物繊維の多い食品を、時間をかけて細かく砕くことができます。つまり、食べ物が胃に長くとどまる傾向があるのです。
けれども近年、脂質やカフェインを含む食品の摂取が増えました。それらの食品には、胃酸を増やしたり、食道と胃の境目にあって、胃酸の逆流を防いでいる筋肉の働きを弱めたりすることで、逆流を促す性質があります。日本人の胃では、こういう食品も長くとどまってしまうため、よけい逆流しやすくなります。
日本人は内臓脂肪がつきやすい遺伝子を持っていますが、内臓脂肪が実際に体調不良や病気を引き起こすようになったのも時代の変化によるものです。ほんの60年ほど前まで、日本人は同じ遺伝子を持っていても内臓脂肪がたくさんつくことはありませんでした。なぜなら、脂質を摂取しすぎず、よく歩いていたからだと考えられます。病気を防いで健康に過ごしたいと思うなら、自分が持つ遺伝子と、遺伝子が作る体質を知り、その弱点を補うような生活を送る必要があるのです。
では、日本で暮らす日本人が、特に気をつけたい病気を見てみましょう。