その逆に、日本人が発症しにくいがんの代表が皮膚がんです。日本は皮膚がんが世界で最も少ない国の1つで、皮膚がんが非常に多いオーストラリアやニュージーランドとくらべて発症率が100分の1しかありません。
皮膚がんの原因は紫外線というのが常識になっていますが、皮膚がんができやすい場所の1つが、紫外線が当たりにくい足の裏であること、日本より紫外線が弱いロシアの方が日本より発症率が高いことなどを考えると、紫外線だけを犯人にするのは無理があります。ここにも、人種による遺伝子の違いがかかわっていると考えるべきでしょう。
もう1つ、覚えておいてほしいのが、日本人の失明原因第1位である緑内障についてです。緑内障は、目が次第にかすんで、放置すると失明する怖い病気です。現在、60代以上では10人に1人が発症していると推定されていますが、自覚症状が表れにくいことが特徴です。
緑内障は眼圧の上昇が原因となって発症することが多いため、以前は眼圧検査を受ければ早期発見できるとされていました。眼圧とは眼球の圧力という意味で、簡単にいうと目の硬さのことです。ところが日本人は、眼圧が正常だったのに緑内障を発症したという人が、緑内障患者さん全体の70%もいることがわかりました。こういうタイプは欧米先進国では30%くらいです。つまり、日本人は眼圧が正常でも安心できないため、眼底検査、視野検査を追加で受ける必要があるのです。
生まれ持った遺伝子と聞くと、病気になるかどうかは生まれつき決まっていると誤解する人がいるかもしれません。けれども、日本人は昔から内臓脂肪がつきやすい遺伝子を持っていたのに、昔の日本人には内臓脂肪がほとんどついていませんでした。
この事実が教えてくれるのは、不利な遺伝子を持っているだけで病気になるわけではなく、そういう人が、体質に合わない、望ましくない生活を送ることで、初めて病気を発症するということです。
今回の記事を参考に、食生活を含む生活習慣を見直してください。皆様の一層のご健康をお祈りしています。
(了。第1回から読む)
【プロフィール】
奥田昌子(おくだ・まさこ)さん/愛知県出身。内科医。京都大学大学院医学研究科修了。生命とは何か、健康とは何かを考える中で予防医学の理念にひかれ、健診・人間ドック実施機関で30万人以上の診察にあたる。
※女性セブン2023年2月9日号