2018年6月9日、21時24分。定刻通り、東京駅を出発した東海道新幹線のぞみ265号。しかし、その列車が終点の新大阪へ着くことはなかった。
新横浜駅から発車して約4分後の21時45分頃、指定席12号車18番D席(通路側)に座っていた「小島一朗」はふいに立ち上がると、荷物棚のバッグからナタを取り出し、隣の席に座っていた女性・X子さんの首筋にめがけて一気に振り下ろした。
「痛いっ!!」──女性の悲鳴を聞いて止めに入った男性・Z夫さんを振りほどくと、小島は別の女性・Y美さんにも一撃を加えたのち、通路に倒れていたZ夫さんに馬乗りになり、無言でナタを振り下ろし続けた……。
今から5年前、走行中の東海道新幹線車内で発生した無差別殺傷事件。偶然近くに居合わせた乗客3人をナタで切りつけ、男性1人を殺害、女性2人に重傷を負わせたのは、当時22歳の小島だった。犯行動機について、小島は「子供の頃から刑務所に入りたかった」と供述している。
自らの望みを叶えるため、怨恨どころか、微塵の縁もない他者を殺めるエゴイズム。その原動力となった、「刑務所に入りたい」という強烈な渇欲。およそ理解し難いそれらのパーソナリティーは、どのように発現し、牢固に形づくられていったのか。
ノンフィクションライターとしても活躍する写真家、インベカヲリ★氏の著書『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』(KADOKAWA)の一部を抜粋して紹介。公判での陳述などから、「小島一朗」という人間の正体に迫る(ショッキングな犯行態様を含むため、ご注意ください)。【前後編の前編】
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事件の詳しい犯行状況が語られたのは、第二回公判の弁護側の被告人質問である。しかし、そこでも小島の異様さばかりが目立っていた。
弁護人「犯行当日、新幹線はどこから乗りましたか?」
小島「東京駅から乗りました。切符は指定席券を東京駅で乗る直前に買い、二人席の通路側を選択しました。トイレに入って、犯行の準備をするために、ナタの留め金を外して、バッグに入れて、ナイフはポケットに入れました」
弁護人「なぜ通路側を選んだんですか?」
小島「窓際の人は確実に殺せるだろうと思って」