聴衆に紛れた木村被告が岸田首相目掛けて投げつけたパイプ爆弾の残骸(時事通信フォト)

聴衆に紛れた木村被告が岸田首相目掛けて投げつけたパイプ爆弾の残骸(時事通信フォト)

動機不明の計画的テロ

 和歌山県警は同5月6日、火薬を無許可で製造していた火薬類取締法違反容疑で再逮捕。鑑定留置が5月22日から9月1日まで行われ、木村被告の責任能力には特に問題がないと判断されたことから、留置期間終了直前の8月31日に殺人未遂や爆発物取締罰則違反などの容疑で追送検し、和歌山地検は9月6日に首相らへの殺人未遂罪などで起訴した。

 事件前、木村被告は被選挙権の年齢制限などを理由に2022年の参院選に立候補できなかったことに不満を持って同年6月に国家賠償請求訴訟を起こしたが、同11月18日に神戸地裁が請求を棄却していた。前述した火薬の原料を購入した時期と近接していたため、警察・検察両当局は犯行動機につながったとみており、供述がなくても首相や聴衆が死亡しても構わないという“未必の故意”が認められると結論付けた。

 ただ、警察庁関係者は「なぜ首相が標的だったのかは謎のままだ」と首を傾げる。国賠訴訟は2022年12月1日に木村被告が大阪高裁へ控訴していたが、テロ後の昨年5月25日、大阪高裁が控訴を棄却。敗訴が確定している。

 また捜査の過程で木村被告の犯行の計画性も明確に浮かび上がった。凶行前の足取り、警察内の隠語で言うところの「前足」について、和歌山県警が作成した和歌山西署捜査本部の捜査報告書を紐解いてみる。

 防犯カメラの映像ではテロ当日の午前7時台に兵庫県川西市の自宅近くでバスに乗り阪急電鉄の川西能勢口駅を経て、午前8時15分前後に大阪梅田駅で急行電車を降車。大阪メトロ御堂筋線に乗り換え、なんば駅から南海電鉄の特急サザンで1時間をかけて和歌山市駅に向かう。午前10時35分過ぎ、和歌山市駅でバスに乗り換え、同11時15分頃、現場となった漁港の最寄り停留所でバスを降りていた。和歌山県警関係者は「愉快犯ではなく明確な目的をもったテロリストであることは計画性が十二分に見て取れる行動から明らかです」と指摘する。

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