陸軍が横暴だったことは事実だが、ヒトラーだったら自分の意に反すること、たとえば軍が独走するなどということは絶対に許しはしない。それが独裁者であり、「意思決定能力が貧弱な」独裁国家などあり得ない。そんな高校生でも気づく矛盾を平気で述べていたのが、当時の歴史学界だった。

 また、「朝鮮戦争は北朝鮮では無く、韓国の奇襲で始まった」など高校生では無理でも少し軍事知識がある人間ならばすぐにわかるデタラメを、一流大学の教授が堂々と講義していた。そういう人間が朝日新聞のような「一流マスコミ」で、「識者」としてもてはやされた時代があった。

 また、そういう連中は「北朝鮮は日本人拉致などしていない。そんなことを言う奴は大嘘つきの右翼だ」等々、まさに大嘘をついていた。残念ながらそうした連中が作った「歴史常識」がいまだに多くの人に信じられている。だから、それをいちいち指摘し、改める必要がある。

 たとえば、日本の第一次世界大戦参戦について言えば膠州湾(青島)攻略だけがクローズアップされているが、じつはこの戦いにおいて事実上のドイツ領であった南太平洋の島々(のちに日本はこれを南洋諸島と呼ぶ)、つまりサイパン、パラオ、トラック、ポナペ、ヤルートを日本は「奪取」するわけだが、これらの島々と周辺の海域は後に「太平洋戦争」でアメリカとの戦いの主戦場になった場所である。

 もちろん、偶然では無い。当時はまだ航空機が戦場に投入されたばかりで、もし日本とアメリカが戦うとすれば巨大戦艦同士が日米の中間にある太平洋で戦うことになるのは、少しでも軍事的、外交的センスのある人間なら予測がつくことだった。だから、当然そうした艦隊の基地に最適な場所として「南洋諸島」は注目されていた。

 ちなみに、一九四一年(昭和16)十二月に始まった戦争を、昭和二十年以降は「太平洋戦争」と呼ぶようになったのは戦後の日本を支配したGHQ(General Headquartersの略。総司令部〈連合国最高司令官総司令部〉)がこの戦争を「そう呼ぶように」と命令したからなのである。では日本でそれまで何と呼んでいたかと言えば、「大東亜戦争」である。

 開戦の年の十二月八日に日本海軍がアメリカ海軍の太平洋基地、真珠湾を奇襲したのはあまりにも有名だが、同じ日に日本陸軍がイギリス軍を東アジアから駆逐するために英領コタバル(現マレーシア)に奇襲上陸したことは知らない人が多い。日本はアメリカ、イギリスと同時に戦争を始めたのである。いわば「総花的」に戦争を始めてしまったのだが、日本側の、とくに陸軍の大義名分としては「アジアの民をイギリスの過酷な支配から解放する」というものがあった。

 結果的に日本陸軍は見事な電撃作戦によってそれに成功するのだが、アメリカは日本の行動にも「三分の理」があったことを認めたくないので、戦争の名前をアジア解放を意識した「大東亜戦争」から「太平洋戦争」に無理やり改めさせたのである。しかし、この言論弾圧は日本が独立を回復した一九五二年(昭和27)以降は当然無効になった。だから歴史学界も当然歴史用語としては教科書に戻さなければいけなかったのに、情けないことにその言論弾圧をいまだに引き継いでいる。だからこそ、大東亜戦争の重要な一局面である陸軍のコタバル奇襲が国民の一般常識となっていない、というバカな事態になる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平選手と妻・真美子さん
《チョビ髭の大谷翔平がハワイに》真美子さんの誕生日に訪れた「リゾートエリア」…不動産ブローカーのインスタにアップされた「短パン・サンダル姿」
NEWSポストセブン
石原さとみ(プロフィール写真)
《ベビーカーを押す幸せシーンも》石原さとみのエリート夫が“1200億円MBO”ビジネス…外資系金融で上位1%に上り詰めた“華麗なる経歴”「年収は億超えか」
NEWSポストセブン
神田沙也加さんはその短い生涯の幕を閉じた
《このタイミングで…》神田沙也加さん命日の直前に元恋人俳優がSNSで“ホストデビュー”を報告、松田聖子は「12月18日」を偲ぶ日に
NEWSポストセブン
高羽悟さんが向き合った「殺された妻の血痕の拭き取り」とは
「なんで自分が…」名古屋主婦殺人事件の遺族が「殺された妻の血痕」を拭き取り続けた年末年始の4日間…警察から「清掃業者も紹介してもらえず」の事情
(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
熱を帯びる「愛子天皇待望論」、オンライン署名は24才のお誕生日を節目に急増 過去に「愛子天皇は否定していない」と発言している高市早苗首相はどう動くのか 
女性セブン
「台湾有事」よりも先に「尖閣有事」が起きる可能性も(習近平氏/時事通信フォト)
《台湾有事より切迫》日中緊迫のなかで見逃せない「尖閣諸島」情勢 中国が台湾への軍事侵攻を考えるのであれば、「まず尖閣、そして南西諸島を制圧」の事態も視野
週刊ポスト
盟友・市川猿之助(左)へ三谷幸喜氏からのエールか(時事通信フォト)
三谷幸喜氏から盟友・市川猿之助へのエールか 新作「三谷かぶき」の最後に猿之助が好きな曲『POP STAR』で出演者が踊った意味を深読みする
週刊ポスト
ハワイ別荘の裁判が長期化している(Instagram/時事通信フォト)
《大谷翔平のハワイ高級リゾート裁判が長期化》次回審理は来年2月のキャンプ中…原告側の要求が認められれば「ファミリーや家族との関係を暴露される」可能性も
NEWSポストセブン
今年6月に行われたソウル中心部でのデモの様子(共同通信社)
《韓国・過激なプラカードで反中》「習近平アウト」「中国共産党を拒否せよ!」20〜30代の「愛国青年」が集結する“China Out!デモ”の実態
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《自宅でしっぽりオフシーズン》大谷翔平と真美子さんが愛する“ケータリング寿司” 世界的シェフに見出す理想の夫婦像
NEWSポストセブン
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(時事通信フォト)
《潤滑ジェルや避妊具が押収されて…》バリ島で現地警察に拘束された英・金髪美女インフルエンサー(26) 撮影スタジオでは19歳の若者らも一緒だった
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! プロ野球「給料ドロボー」ランキングほか
「週刊ポスト」本日発売! プロ野球「給料ドロボー」ランキングほか
NEWSポストセブン