全国各地で観光公害(オーバーツーリズム)が問題となっている。観光地として整備されていない山梨県河口湖町のコンビニ前が撮影スポットとして人気になり、ゴミや騒音、交通事故などを引き起こしている(EPA=時事)
訪日外国人観光客の増加は、最近の円安傾向に特有の現象ではない。2012年に発足した第2次安倍政権が訪日外国人観光客の誘致を成長戦略の柱にし、それを実現することに邁進した。当初、安倍政権は2020年までに年間2000万人の訪日外国人観光客を目標に掲げていた。段階的に実施したビザ発給要件の緩和やプロモーションの強化などが奏功し、目標の年間2000万人を早々に達成していた。
上方修正された2020年までに4000万人という目標はコロナ禍によって達成できなかったが、政府や財界関係者・観光関連産業関係者たちは自信を深めた。コロナ前の成功体験をもとに、鉄道各社はコロナ禍より訪日外国人観光客を取りこぼさない準備を進めてきた。タッチ決済による乗車も、彼らの需要を見越した施策のひとつといえる。
観光公害にどうやって立ち向かうのか
その一方で、外国人観光客から人気が高い観光都市では鉄道・バスが混雑して日常生活が脅かされる事態も発生している。こうした鉄道・バスの混雑は観光公害(オーバーツーリズム)と広く認識されるようになった。
市民の足でもある鉄道やバスが観光客の増加によって機能不全に陥るオーバーツーリズムは、一昔前なら東京・鎌倉・京都・大阪といった観光都市特有の問題とされてきた。大勢の観光客のために電車やバスに乗れなかった通勤や通学の乗客たちが、ホームに取り残される“実害”が発生しているため、対応に追われている様子をニュースで目にしたことがある人も多いだろう。ところが昨今は、観光都市とは思えないような場所にも訪日外国人観光客が押し寄せ、地域住民の日常生活が乱される事例が起きている。山梨県河口湖町のコンビニが映え写真スポットとしてSNSで有名になり、外国人観光客が殺到して“公害”を引き起こしている件は、多くの人が知るところとなった。
これらの“公害”には、どのように対応していけばよいのか。
鉄道・バスに人が乗り切れずに起きる旅客の積み残しは、次にやってくる鉄道・バスに乗車するといった対応で解決できる。しかし、昨今は働き方改革に伴う2024年問題で、鉄道・バスの運転士は慢性的に不足している。運転士が不足しているので、簡単に鉄道・バスを増便できない。そうした運転士不足は地方都市だけではなく、横浜市といった大都市圏にも及び始めた。
また、訪日外国人観光客の激増によって、日本ではこれまであまり馴染みが無かった現象も起きている。例えば、東京・豊洲市場で1杯1万5000円以上にも関わらず、飛ぶように売れている海鮮丼の例がある。それらを注文しているのは主に訪日外国人観光客で、それゆえにインバウンドをもじって”インバウン丼”とも揶揄される。この価格上昇は、従来の客とっては”公害”のようなものだろう。