JR新宿駅のきっぷ売り場には、ICカード利用時の運賃対応表
インバウンドと通常の客、どちらも取りこぼさない策として一部の飲食店は国内在住者と訪日外国人観光客との間に価格差をつける”二重価格”を設定する動きも出ている。二重価格とは、訪日外国人観光客には高い価格を設定し、従来の利用客にはこれまでと同等の価格に据え置くといったものだ。
二重価格を設定することにより、飲食店は訪日外国人観光客から利益をあげることができる。対して、通常の客にはそれまでと同じレベルの価格で提供するので客離れを起こさずに済む。こうした二重価格を差別的な扱いと非難する向きがある一方、「外国語対応のため」を理由に二重価格の正当性を主張する店側の声や理解を示す消費者もいる。
鉄道における二重価格の可能性
二重価格を設定する動きは今のところ飲食店などに限定されているが、今後は他業界、例えばオーバーツーリズムで本来の機能を果たせていない鉄道・バスといった交通事業者に広がっていく可能性がある。なぜなら鉄道・バス事業者間ではインバウンドを意識して、タッチ決済による乗車サービスの導入を積極的に進めているからだ。
「タッチ決済に対応した乗車サービスの実証実験は訪日外国人観光客を取り込むための施策ですが、弊社は二重価格の設定を検討しておりません。あくまでも、柔軟でシームレスな乗車サービスの提供することを目的にしています」(同)
東急のほか、京浜急行電鉄や都営地下鉄でも2024年度内にタッチ決済乗車の導入することが発表された。すでに地方でもタッチ決済による乗車を導入している鉄道事業者は少なくない。
今回、いくつかの鉄道事業者に対して「二重価格の導入を検討しているのか?」と取材をしたが、現状で二重価格の導入を検討していると回答した事業者はなかった。
公共交通において、“二重価格”は馴染まないとする意見も業界内には根強い。しかし、すでに鉄道・バス業界はIC乗車券での運賃と現金支払いによる運賃で二重価格を導入している。