“適齢期”を迎えたら、結婚して出産して、子育てをする──多様な生き方ができる時代ではもはや“化石”のような考え方だが、女性の体にある“適齢”はいつの時代も変わらない。その残酷な事実が惑いや不安、苦しみを生んでいる。
6月5日、衝撃的な数字が発表された。2023年の合計特殊出生率は1.20と過去最低を記録し、東京都ではついに1を切って0.99に。少子化は加速するばかりだが、なにもこれは「子供を持たない」と考える人が増えているからではない。「経済的余裕がない」「仕事が忙しくてなかなか出産に踏み切れない」「仕事をしながらの子育ては大変で、1人産むだけで精いっぱい」など、それぞれの家族に十人十色の“持てない理由”が存在する。
そして、「産みたいのに、産めない」と、不妊治療を受ける女性は年々増えている。国はそうした姿に応える形で、2022年4月、不妊治療への保険適用範囲を大幅に拡大した。それまでは基本的には全額自己負担だった不妊治療のハードルがぐっと下がったことになる。2022年度、不妊治療に使われた医療費は約895億円に達し、患者数は約37万3000人。約7割が体外受精などのいわゆる生殖補助医療を受けていた。
日本産科婦人科学会が発表した統計を見ると、体外受精を試みる人の数はこの20年で約8倍にも増えており、2021年の体外受精による出生数は前年から一気に9416人も増えて過去最高の6万9797人に達した。この年の全体の出生数は81万1604人なので、体外受精児の割合はおよそ8%にのぼる。グレイス杉山クリニックSHIBUYA院長の岡田有香さんが言う。
「政府の統計によると、婚姻関係にあるカップルの約5.5組に1組が不妊治療を行っており、行っていないカップルも3組に1組が治療を視野に入れているといわれています」