出典/国立成育医療研究センターの調査
不妊の当事者は女性だけとは限らない
保険適用によって金銭的な問題は若干の改善がなされたが、時間的な問題は残されたまま。こうした年齢による線引きの裏側には医学的な根拠がある。日本では、35才以上の初産と40才以上の経産婦の出産を高齢出産と定義づけており、これはデータに基づき、妊娠・出産に伴うリスクを鑑みてのもの。
「ひとつは胎児の染色体異常があります。35才を過ぎるとその発生の確率は上がります。染色体異常の病気の中で年齢の影響を受けやすいのは、ダウン症や18トリソミー、13トリソミーです。染色体異常があると妊娠が成立しにくくなり、この3つ以外がある受精卵は生存の可能性がほとんどありません。高齢出産では流産率も高くなりますが、その原因の多くは胎児の染色体異常です」(河合さん)
妊娠して安定期まで成長したとしても、妊娠中の母体には大きな負担がかかる。
「35才以降は高血圧症候群、妊娠糖尿病、前置胎盤などのリスクが増え、それに伴う流産や死産の可能性も高まる。子宮や胎盤の状態から、早産になりやすい。早産で生まれてしまうと母体はもちろん赤ちゃんにとっても命にかかわります。また、40代になってから出産されて、きょうだいを産みたいという希望を持つかたも多いのですが、子育てにも体力が必要です」(岡田さん・以下同)
遡ること約10年前には、「卵子老化」という言葉に注目が集まり、不妊は女性の問題と考える向きもいまだに強いが、男性側にも当然加齢に伴う変化はある。日本生殖医学会は、「加齢とともに1日に作られる精子の数が減少する」ことや、「男性の加齢によって自然流産の確率が上昇」するという報告があることを公表しており、海外の疫学調査では、父親の加齢が子供の神経発達障害のリスクを上げるという結果も出ている。
子を産むのこそ女性だが、年齢の壁は男女ともにはだかるものであり、不妊治療の当事者は決して女性とは限らない。にもかかわらず、日本の不妊治療は女性にかかる負担があまりにも大きい。実際、厚生労働省が公表したデータによると2022年度の男性不妊の治療者はわずか513人だ。女性にかかる精神的負担は、経験者にとっても受け止め方はそれぞれ異なり、誰にもストレスを明かせないことがさらなる苦しみともなる。
「たとえば、体外受精をする場合の採卵は腟から卵巣へと針を刺して行うので痛みが伴います。1回の採卵につき2週間に4〜5回行うのが一般的で、後半の1週間で2、3日に1回は通院することになる。そのために、仕事をしている場合は遅刻・早退をせざるを得ず、両立させるのは簡単ではありません」