出典/日本産科婦人科学界

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日本の不妊治療は世界でも遅れている

 日本におけるこうした不妊治療の実態は、先進国の中では「極めて遅れている方」だと岡田さんは嘆く。

「そもそも日本の場合、不妊治療をしていること、不妊治療によって子供を授かったことを当事者が公にしにくいという特徴があります。前述の通り、いま不妊治療を行うことは決して特別なケースではない。いまより少しオープンにできれば精神的負担は緩和され、治療しやすくなる環境が作れるはずです」

 河合さんも、保険適用の範囲拡大のほかにも国にできることがあると指摘する。

「海外で一般的になっている治療のひとつにPGT-Aというものがあります。これはいわば受精卵の着床前診断のようなもので、体外で受精させた受精卵を子宮に戻す前に染色体を調べ、染色体異常が認められない受精卵だけを戻すことで、妊娠しなかったり流産したりする体外受精を大きく減らすことができます。

 しかし、日本ではこの検査は自由診療となるため、保険適用の治療と組み合わせると混合診療となってしまい、すべて自己負担になる。せっかくの保険適用を生かせなくなってしまうのです」(河合さん・以下同)

 事実、NPO法人の調査によると、保険適用前後の治療費用について約3割の人が「増えた」と回答。また、保険適用は思わぬ影響を及ぼしてもいる。

「以前、不妊について専門のカウンセラーに相談するカウンセリングは、自由診療で行われていました。費用はかかりましたが専門家とじっくり話ができたのです。ところが、不妊治療が保険適用になってカウンセリングの料金は管理料として一括されることになり、クリニックが料金を決めることができなくなった結果、カウンセリングを行わなくなるところが増えました」

 滝川クリステル(46才)は42才で、華原朋美(49才)は45才で、坂上みき(65才)は53才で──芸能人の高齢出産は大きく報じられ、それが不妊治療を受ける女性を勇気づけることもある。一方で、これは極めて奇跡的な例ともいえる。

「2021年の統計では、45才以上の出産は全体の0.1%に過ぎません」と岡田さんが言えば、河合さんもこう続ける。

「保険適用が43才未満であることを考えると、それがひとつの区切りと考えるかたもいるでしょう。もちろん43才以上でトライしてはいけないというわけではありませんが、目安にはなると思います」

 39才、そして43才という国が示す“壁”を前に、子供を望むカップルにできるのは、できるだけ早く動き出すことだ。

「体外受精に抵抗感があったり、自然に授かりたいと言って、なかなか体外受精にまでは踏み切れないというかたもいます。でも、年齢が高くなってから焦って治療を始め、後悔を味わうかたたちをたくさん取材してきました。妊娠したいと思ったタイミングで、すぐに不妊治療専門のクリニックに相談に行ってほしい」(河合さん)

 岡田さんも、特に35才以上の女性には早い決断を呼びかける。

「自然妊娠を1年間待たなくとも不妊治療に取り組むことはできます。日本では妊娠を考えてから不妊治療にたどり着くまでの年数が長く、3年以上かかるというデータもありますが、もったいない。女性の間には、年齢が上がると妊娠しにくくなるという認識が広がりつつあっても、男性はまだまだ。受精卵凍結などを視野に入れて治療するためにも男性の意識改革は喫緊です」(岡田さん)

 いつ始め、いつやめるか。正解がないからこそ、後悔のない選択ができるよう、“最善の道”を探り続けていかなくてはならない。

※女性セブン2024年6月27日号

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