近年に起きた「産地偽装」トラブル・事件
生まれも育ちも日本のうなぎは少数派
「産地のウソ」が潜んでいるのは、単なる「偽装」だけではない。食料品店の商品棚で、消費者の選択肢となる原料産地表示には、あるカラクリがある。
生鮮食料品に「国産」という表示が書かれてあれば、生産から加工まですべて日本で行われていると思いがちである。しかし、実際はそうではないケースが多々ある。
たとえばアメリカで生産された畜産物を生きたまま輸入し、日本でしばらく飼育したのちに精肉にして出荷したとする。その場合、アメリカ生まれのこの畜肉には、「アメリカ産」と表示されるはずだと思う消費者が大半だろう。
しかし、食品表示法においては、アメリカよりも日本での生育期間が一日でも長ければ、国産と表示することになっているのだ。これを俗に「長いところルール」という。
つまりわれわれが日常的に口にしている「国産牛」も生まれをたどれば外国の可能性があるということだ。東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授の鈴木宣弘さんがこう話す。
「『国産』と表示されて販売されているノーブランドの牛肉には、オーストラリアをはじめ海外から生体で輸入されたホルスタインが乳牛としての役目を終え、廃用牛として肉にされたものも含まれています。
ホルスタインは通常子牛や初妊のときに輸入され、2才半くらいから搾乳されるようになり、一般的に5〜6才で廃用となるといわれています。長いところルールに従えば、ほとんどの場合は国産と呼べるのです」
そうした長いところルールを悪用した例として大きな問題に発展したのが、2022年に明るみに出たあさり産地偽装事件だ。
問題のあさりは熊本県内の水産会社が、中国産や韓国産のものを国内の干潟で蓄養し、長いところルールにのっとり「熊本県産」として出荷していた。ところが、国内での蓄養期間が輸入元の国でのそれと比べて極端に短いことが発覚した。
その一件をきっかけに、あさりに関しては原則として長いところルールの適用外となり、輸出国を産地として表示することとなった。現在、スーパーで見かけるあさりのほとんどが中国産となっているのは、この改正によるものだ。
しかし、あさり以外の水産物はまだ長いところルールが適用されている場合があると、食品問題に詳しいジャーナリストの奥窪優木さんは言う。
「しじみやはまぐりなど二枚貝はいまだ長いところルールが適用されているケースは少なくありません。
また、同じく“ルール”適用内のうなぎの養殖に使われるニホンウナギの稚魚は、その半数以上を輸入に頼っています。つまり、養殖うなぎの場合は国産を名乗っているもののなかでも“生まれも育ちも日本”といううなぎは少数派です。まさに『産地ロンダリング』がまかり通っています」
ちなみに生まれも育ちも日本だが、血統的には「ミックス」というケースが多いのが、スーパーで売られている国産鶏肉だ。
「国産のブロイラーのほとんどが、実は外国産ブロイラーのハーフかクオーターの肉だということはあまり知られていません。ブロイラーを産むための『種鶏』やその親世代にあたる『原種鶏』のひなは生体でフランスやイギリスを中心とした外国から輸入されています。それらの外国産の鶏を日本にいる鶏と掛け合わせることでブロイラーは繁殖していくのです。
原種鶏のひ孫、つまり両親ともに日本産の鶏から生まれたブロイラーになると、繁殖や精肉に至るまでの歩留まりが悪くなるため、新たな原種鶏をまた輸入して日本生まれのブロイラーと掛け合わせて繁殖させているのです」(垣田さん)
また、畜産は国内で育ったといっても、飼料の約75%は「外国産」であることも知っておきたい。
「鶏の主なえさであるトウモロコシに至っては、ほぼ100%の割合。主な輸入国はアメリカやブラジルです」(鈴木さん)