〈部落地名総鑑で調べる〉に連なるやり取りでは、〈A:かたや○○(地名)のどえた、かたや○○(地名)のどえた〉など、地名をあげた発言が続く箇所もある。
Aの発言が酷いのは当然だが、指導する立場のBも「無茶苦茶言うわ」と、いなすだけでブレーキを踏まない。ゆえにAが暴走していくのだ。
言うまでもないが、ここに登場する「どえった(えた・えった)」は被差別部落出身者に対する「賤称語」だ。Aはこの3日間・計22分の間に75回もその言葉を発した。1分間に3回以上の頻度だ。
市に資料の確認を求めたが、テープ起こしの資料を作成した事実は認めたものの、私が入手した資料とそれが一致するかについては「お答えしかねる」とするのみ。
では、この2人はなぜこんな会話を繰り返すのか。聴取結果について聞くと、市は次のような趣旨の文書回答をした。
「職員Aは、同僚職員への悪口として(中略)職員Bは、職員Aの職場状況から、自分しか話を聞いてあげる者はいないと考え、職員Aの差別発言を指導・注意せず、自身も助長する差別発言を行ったものです」
孤立した職員の憤懣が平然と差別と結びつく。これは個人だけの問題か。職場に原因はないのか。
市が追加発表を行なった翌2日、今度は部落解放同盟大阪府連合会が「断固抗議する声明」を発表した。
声明で解放同盟は前日の市の追加発表を引用しつつ、〈他の職員への不満や発言者本人が孤立している職場環境への憤りに対して、相手を攻撃する材料に部落問題を持ち出し、自分を理解しないのは、「どエッタ」だからだとする身勝手で傲慢な思い込みこそ、深刻な差別意識のあらわれ〉〈二人の会話は日常会話として毎回のように交わされている会話だと推測され、差別発言が日常化していた事は、火を見るよりも明らか〉と断じ、真相究明の徹底を求めた。
具体的な発言の公表を渋る市の姿勢について改めて見解を問うと、前出・高橋氏はこう語った。
「当初よりは一定の前進はあったものの全く不十分な発表だと思います。本来ならば、どんな文脈で語られたのか、なぜこんな発言が行なわれたのかがわかるよう、最初の段階からきちんと発表すべきなのですから」
より厳しく批判する見解もある。部落解放同盟中央本部で差別問題に取り組み、差別表現・差別報道をめぐる著書が複数ある小林健治氏(にんげん出版代表)は今回の発言を「ヘイトスピーチ」と言い切って続ける。
「差別語を隠すというのは、その言葉が持つ差別性を見えなくすることなんです。逆に差別と戦うには差別語が持っている差別性を前面に出して、それを批判すべき。だからどんな発言がなされたのか、すべて公表すべきなのです。『どえった』と言われて差別された、その言葉にこそ憎しみと怒り悲しみがこもっているわけで、その言葉を明らかにすることで、日本の深いところで差別が厳然と残っていることが炙り出され、差別解消の一歩につながるのです」
確かに、前出・3月28日の発言記録には、問題の根深さを感じさせる次のような記述もある。
〈A:どえった嫌いや
B:改めて言うわ、十分知ってるて〉
2人のこうした会話は、以前から常態化していた可能性もあるのだ。