同和行政縮小の末に
貝塚市議を経て2003年に解放同盟の組織内候補として府議に当選した元府議会議長の今井豊氏に話を聞いた。2010年には松井一郎氏(当時は大阪府議)らと大阪維新の会を創設したメンバーの1人だ。
「橋下徹が突破口を開けたとはいえ、大阪市役所は問題に蓋をしたがる体質がきついねん。“寝た子を起こさないよう黙っとく”という考え方じゃなしに、こんな考えの人間が、まして税金で飯を食う行政マンにまだおるということを徹底的に明らかにせんと」
常習的であるということは、職員個人の責任というより、職場環境を整える市のガバナンスの欠陥が疑われる。生々しい記述を避けるのは、「差別助長」を盾に市の失策を“隠蔽する”ことにつながるのではないか。
かつての大阪では激しい差別に抗する運動の力も強靭だった。それが施設整備や税の減免など優遇策を同和対策事業として引き出す力にもなり、一部では行き過ぎて、不祥事も誘発した。
2002年に同和対策事業特別措置法が失効するが、以降、2005年の大阪府同和建設協会談合事件(※大阪市が発注した街路樹維持管理業務を巡る不正入札事件。大阪市側が、大阪府同和建設協会に加盟する業者だけが同業務を落札できるように選定していた)や2006年の飛鳥会事件(※財団法人「飛鳥会」理事長で部落解放同盟大阪府連合会飛鳥支部長が、大阪市側が管理を委託していた駐車場収入の一部を着服していた事件)など、市や解放同盟幹部が絡んだ不正の摘発が相次ぎ、同和行政が大幅に整理縮小される流れが強まった。
そして法の失効後に、市の同和対策部は「市民局人権室」に、2013年には「ダイバーシティ推進室」に改組。同和問題は多様性のなかの一つとして扱われるようになった。
だが、差別は現に存在する。2020年の法務省の意識調査によれば、「部落差別を経験や見聞きしたことがあるか」という質問に「ある」とした答えが、近畿や中国、四国ではいずれも25%強に上る。
インターネット上に被差別部落の地名を記すなど、差別を“おもちゃ”にするような勢力まで登場するなか、差別への抵抗力の衰えは深刻な危機だ。そんな現状について横山英幸市長に聞くと、「未だ、今回のような差別発言をおこなう職員がいることは非常に遺憾であり、より実効性を高める取組を検討するよう担当所属に指示した」という文書回答だった。
ただ、対策の前に真相究明が先だ。発言を明らかにするよう市を問い詰めないメディアの罪も重い。緊張感の欠落は、それ自体が差別を助長する要因になりかねないからだ。
【プロフィール】
広野真嗣(ひろの・しんじ)/ノンフィクション作家。神戸新聞記者、猪瀬直樹事務所スタッフを経て、フリーに。2017年、『消された信仰』(小学館文庫)で小学館ノンフィクション大賞受賞。近著に『奔流 コロナ「専門家」はなぜ消されたのか』(講談社)。
※週刊ポスト2024年7月19・26日号