亡くなった落語家の桂米丸さん

90歳を超えても高座に上がっていた

現実がネタに追い付き、追い越していく

 米丸さんは師匠の考えで前座をやらなかったという。1年後に二つ目、3年後に真打に昇進。新聞でもスピード出世とか騒がれた。

「自分ではどうなっているかわからなかった。師匠が言う通りにやっただけ。うちの師匠が凄いのは、自分の新作の十八番を弟子に稽古をつけて教えちゃう。他の師匠が“そんなことをすれば自分のやる噺がなくなる”と心配したほど。それを師匠に伝えたところ、“いいよ。また十八番を作ればいいんだから”と。もの凄いエネルギーと自信をもっていた。その影響を受けたのかもしれない。

 新作落語は思っているより大変なんですよ。ネタを作らないといけないし、それを暗記するのも大変。ところが、暗記したのにウケない。それでも(ネタがもまれて)成長してくれればいいが、ほとんどがダメになっていく。それに対して古典落語は覚えたものはずっと先まで使える。生きる種です。私と一緒に入門した落語家が、20代にやったネタを50代でもやっているんだからね。それが古典落語。同じ話をしているんだから、そりゃ上手くなりますよ。師匠は“(古典落語を)何十年もやってうまくならなければバカだよ”と言っていましたけどね…(笑)」

 新作落語は「10本作って1本が残ればいい」と話す米丸さんだが、「10本に1本がウケたとしても、生活様式や社会がどんどん変わっていく…。だから今の話(流行)は新作ではしないのが鉄則なんですが、今の話がウケるんですよね」とジレンマに陥るという。

「以前、オレオレ詐欺のネタをやったんだけど、手口がどんどん進んでいるので、ネタが追い付けなくなってしまう。泥棒の話でも鍵がかかっていても、今は家の中のデータを盗んでしまう。耳鼻科に行くと、鼓膜に穴が空いているという。細胞が再生して障子みたいに張り替えられたらいいのに…と先生と会話したことをネタにしたが、半年もすれば医学が進んで現実のものになってしまう。自動車だって自動運転の話を作ったことがあるが、それが現実になってしまったからネタにならない。昔は奇抜なことは、客席から“そんなバカな”と受け入れられないので新作にならなかったが、今は奇抜な話がウケるけど、すぐに現実が追い付いてしまう。そんなことの繰り返しですね。

 自動車が自動運転になり、電話番号を入れるだけでそこに連れて行ってくれるようになると話していたら、その通りになっている。ナビの指示通り運転しないと“なぜ曲がらないんですか”と指導されると話していたのに、今は“ここです”と連れていってくれるんだからね。大阪では関西弁のナビが活躍すると話をしていても、現実が追い付いてしまう。いろんなものに加速度がついて凄い世の中です」

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