45個のメダルを獲得したパリ五輪に続き、8月28日に開幕するパラリンピックでも、メダル獲得が期待される日本人アスリートは多い。パラ五輪での注目アスリートと、彼ら/彼女らの活躍を見届けるうえで知っておきたいパラリンピックの歴史を、日本パラ陸上競技連盟会長の増田明美さんが語った。『パラリンピックと日本人』(小学館新書)の著者でノンフィクションライターの稲泉連氏がレポートする。
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「失ったものを数えるな、残されたものを最大限生かせ」
パラリンピックの創始者であるイギリスの医師、ルートヴィヒ・グットマンは、脊髄損傷で車いすを使うようになった患者に、そんな言葉を投げかけてスポーツを勧めた。
増田さんは、グットマンのこの言葉に強く心を惹かれてきた、と話す。
「様々な競技を通して記録に挑むパラアスリートの姿を見ていると、彼らの身体表現にいつも魅了されます。選手たちはグットマンの言葉通り、失ったものを数えていない。今あるものを最大限生かす様子に、私も力をもらい続けてきました」
「パラアスリート」の存在に注目が集まった大きなきっかけに、2012年にロンドンで開催されたパラリンピックがあった。同大会では義足などの装具を使う選手たちを、公共放送の「Channel4」が「スーパーヒューマン」と名づけ、大々的なプロモーションを行なった。チケットも連日完売し、パラスポーツの世界観を示す一つの転換点だったとされる。その後、2016年のリオ大会、2021年の東京大会を経て、「日本でもパラリンピックのスター選手が増えてきた」と増田さんは言う。
「例えば、競泳の視覚障害のクラスで連覇に挑む木村敬一選手は、スピーチも抜群に上手な選手団におけるムードメーカー。陸上競技でもマラソンのT12クラスで世界記録を持つ道下美里選手、上肢欠損のT47クラスの辻沙絵選手など、華のある選手が大勢いるんです」
オリ・パラ選手が合同練習
近年、パラスポーツの競技のレベルは一段と向上しており、イギリスではオリンピック・パラリンピックの陸上選手が、事前に合宿トレーニングを行なっているという。
「日本でも100メートルで9秒95の日本記録を持つ山縣亮太選手が、義足のパラアスリートである高桑早生選手と一緒に練習し、同じコーチから指導を受けています。山縣選手は怪我でパリのオリンピックに出場できませんでしたが、健常者と障害者のアスリートがお互いに学び合い、互いに刺激を受けながら記録を伸ばすことも起こってきているんですね」
また、パリ大会では各競技の世代交代にも注目したい。車いすテニスの小田凱人選手には国枝慎吾さんに続く活躍が期待されている。今年5月に神戸で行なわれた世界パラ選手権で銀メダルを獲得した福永凌太選手や石山大輝選手などにも増田さんは注目している。
「二人が活躍した神戸での世界選手権では、走り幅跳びで8メートル72センチという世界記録を持つ義足のジャンパー、マルクス・レーム選手が、大会後にこう言っていました。『皆さん、人と違うことに自信と喜びを感じてください』と。グットマンの言葉と共鳴するこのメッセージは、パラリンピックの持つ大きな意義を感じさせるものでしょう」