それだけではない。和歌山県串本町の田嶋勝正町長は今回の選挙戦を「悩ましかった」と振り返る。
「町村会は二階氏支持で固まっていた。しかし、うちの町立病院には近大関連病院から医師が派遣されているんです。私から世耕氏に電話を入れて、『お世話になっているのに申し訳ない』と謝りました」
選挙区内には近大の附属中高、附属農場、水産研究所など関連施設も数多くあり、様々な影響力が窺えるのだ。
そうしたなか、公益通報という形で告発された世耕氏による近大の「私物化」について、元文科官僚の寺脇研・京都芸術大学客員教授はこう語る。
「今回の通報にあるような教育基本法違反の疑いがある場合も、文科省が何か動けるという規定はありません。法律違反を問うなら最後は司法機関が判断することになる。
ただ、教職員組合の訴えを理事長が無視すれば改正私立学校法の問題になる。これは日大事件(注:2021年11月、日本大学の関連事業で受け取ったリベートを巡る脱税事件で田中英寿前理事長が所得税法違反容疑で逮捕された。2022年4月に有罪確定。日大のトップとして13年にわたり君臨してきた理事長や側近の元理事らによる大学の私物化などが明らかになった。)での理事長のやりたい放題を受け、暴走を止める仕組みが必要だとして来年4月に施行される改正法です。組合の要求に理事長が応じない場合、大学の評議員会に訴え出れば、評議員会を通じ対応を求められるようになる。つまり、世耕氏も訴えを無視できなくなるということです」
世耕氏のXの投稿、近大の私物化、政治利用についての事実関係や公益通報されたことへの見解などを近大、世耕事務所に訊いたが、いずれも期日までに回答はなかった。
裏金問題では政治家としての資質が問われた世耕氏だが、今は教育機関トップとしての資質も問われている。
【プロフィール】
赤石晋一郎(あかいし・しんいちろう)/ジャーナリスト。「FRIDAY」「週刊文春」記者を経て2019年よりフリーに。近著に『韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち』(小学館新書)、『完落ち 警視庁捜査一課「取調室」秘録』(文藝春秋)。『元文春記者チャンネル』をYouTubeにて配信中。Xアカウントは【@red0101a】。
※週刊ポスト2024年12月6日・13日号