斎藤元彦・兵庫県知事の勝利は、“日本版トランプ現象”ではないか。2020年のアメリカ大統領選挙で、1年にわたり“トランプ信者”を至近距離で取材したジャーナリスト・横田増生氏が、出直しのために挑んだ選挙でどこまで斎藤氏が支持を広げることができるのかに注目。告示日前から投開票日までの1カ月間、斎藤支持者に密着取材した(本文敬称略、年齢は取材当時)。【全3回の第3回。第1回から読む】
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この選挙戦で、元県民局長の私的な醜聞と自殺を結び付ける陰謀論を展開したのは、今回の選挙に、斎藤を応援するために立候補した立花孝志だ。立花は、元県民局長が公用パソコンの中身を暴露されるのが怖くて、自殺した可能性が高い、と街頭演説で繰り返し語ることで、斎藤を援護してきた。
斎藤の出陣式の直後に、同じ場所に立花が現れたとき、聴衆から、タチバナコールとともに、「正義の味方!」という掛け声までかかった。立花は何度も斎藤の演説の後を付いて回り、真偽不明の言説を撒き散らした。それをSNSでも拡散した。
ここで一つ重要なことがある。
元県民局長のプライベートな事柄については、取材している記者の大半が知っていたが、テレビや新聞、主要な雑誌が報じることはまずない。しかし、それは斎藤支持者が主張するように、「メディアが真実を隠蔽している」からではない。
現時点で、元県民局長のプライベートな問題と自殺には直接的な因果関係は認められない。私的な醜聞情報には、報道が満たすべき公共性と公益性、真実性が欠如している。だから、主要メディアは報じないのだ。
私的な問題以上に大切なことは、県の最高権力者である斎藤が公益通報者保護法に反する可能性がある告発者探しをした過程で、元県民局長が自殺とみられる死を遂げたことだ。斎藤自身は立花との直接的な関係を否定する。
「いろんな人がいろんな考えを持って選挙戦に挑んでいる。人は人。自分は自分だ」と先のインタビューで答えている。ネット上で裏では立花とつながっているのではないか、という噂が流れた、斎藤を支持する明石市在住の会社経営者である朝比奈秀典 (61)に訊くと、「(斎藤)候補者には、立花氏とは接触するな、と助言している」と答えた。