仁科が語った「苦労」とは
「初めてお伝えしますが……僕、『閉塞性無精子』で、息子は不妊治療を重ねたのちに授かった子どもでした」
閉塞性無精子とは、いわゆる男性不妊症の一種。産生された精子を体外に射出するための通路(精巣上体管や精管など)が、何らかの原因で閉じてしまう精路障害。精巣内で精子は産生されるが、精子が通るための管が閉鎖してしまうことで精子が体外に射出されることはなく、無精子症と診断される。ゆえに、相手側の自然妊娠はほぼ不可能とされている。
「妻には交際している時にすべてを伝え、話し合い、ふたりで納得して結婚しました。それでも、僕がどうしても子どもを諦めきれず、妻と相談して治療を受けることにしました。自分が不妊の原因だったので、妻には申し訳ない思いでいっぱいでした」
仁科さんが向き合ったのは、顕微鏡下精巣内精子採取術(Micro-TESE)だった。精巣を切り開いて精細管を採取し、その中から精子を見つけ出す。精子回収率は、施設にもよるが20〜40%ほどと言われているものの、仁科さんは運良く複数の精子が得られ、凍結保存した。
「自分の陰嚢を切開するというだけでも恐怖感がありましたが、局所麻酔を打つ時にかなり痛みを感じました。あんな痛みは人生で初めてです。術後も、1カ月くらいは違和感が続きました。でも、精子がいたから精神的にはまだ救われました。しかし、ここから大変なのが妻なんです」