石破茂総理は2月17日の衆院予算委員会で高額療養費制度について「年4回以上該当される方の自己負担額の見直しを凍結し、据え置くことを政府として決断した」と表明した(時事通信フォト)
「家も売りに出すことを考えて査定してもらいましたが、不便な場所でなかなかうまくいかなくて。何より今の状況で住むところもないと大変だと思いなおし、ひとりになり乳がんになっても必死で働いてなんとかやっていました。でも抗がん剤治療をはじめると私の場合、前のように働くのはとても無理でした。休職したかったけど、当時働いていたところでは社会保険料を毎月納めなければならず、確か7万近くだったと思います。結局、傷病手当金をもらって1年半後に復職しましたが、この頃から医療費を払うために夜勤明けの休みの日に日勤も入れてもらうようになりました。本当にきつかった。でも仕方なくて」
病気や治療、収入、そして働いている会社の保険によって、状況も違えば細かな負担する金額も違う。もし病気になっても手厚い保障のある会社なども確かにある。しかし、そんな恵まれた環境にいる人ばかりが病気になるわけではない。
智子さんは以前、夜勤中の仮眠でもアラームが鳴れば、すぐに起きることができたそうだ。しかし働きながらの治療で身体は少しずつ悲鳴をあげていく。仮眠後、簡単に起きることができなくなってしまう日もあった。結局、通院で休みがちになり退職。身体の様子をみながら、シフトの融通がきく派遣会社に登録したが、前のようには働けなくなる。時給で働くため、年収は300万円から多くても340万円程度に下がってしまったという。
「治療費や生活費のことを考えると働くしかない。でも、バイトを増やして収入が増えると払う医療費も高くなる。まるで負の連鎖。支えてくれる家族がいてお金の心配がいらない患者さんばっかりじゃない。看護師は慢性的な人手不足だし、資格があるので何とか派遣会社に登録し、勤務日数を減らして私は仕事を続けられました。でも仕事だって頼る人がいないから、きっと私みたいに無理している人もいると思う。言えないだけで」
家族も病気になったとき
家族がいるからといって決して大丈夫だというわけではない。病気によっては長期間ずっと高額な薬を飲み続けないといけない患者が多いのも現実だ。そして、もしそれを支えてくれている家族も病気になってしまったら、どうなるのか。
40代の真理さん(仮名)は子どもを授かることはできなかったが、共働きで夫婦ふたり暮らしを楽しんでいた。
「私は5年前に白血病になりました。今は完治も期待できる血液のがんもありますが、私の場合は薬を飲み続けなければならなくて。入院中も主人が支えてくれましたが、その後、主人もがんに罹ったことがわかり、手術が必要になったんです。主人はひと回り以上年上、正社員でしたがリストラに遭い、派遣で働くようになりました。私も退院後は派遣で事務の仕事を探し、治療費の為に働いています。今は貯金もほとんど残ってない。両親だって高齢だし。きょうだいはいますが、今の時代みんな生活していくだけで精一杯ですよ」