長期間、高価な治療薬が必要になることも(写真提供/イメージマート)
夫婦ともがんになってしまうことだって、誰にでも十分にありうる話だ。だが、自分の身に起きて初めて分かることも多い。真理さんはがん家系でもなく、まさか自分が血液のがんになるなんて想像もしなかったそうだ。
「それにがん治療がこんなにお金がかかるなんて知らなかった。日本は公的医療保険もあるし健康だけは自信があったから、がん保険にも入ってなくて。夫婦ふたりともがんになるなんて、幸運じゃないほうの宝くじにでも当たった気分。でも頑張るしかないから」
他にも「子どもたちの将来の為にもお金が必要だから治療を諦める」「最近は会社を休みがちになってしまい、この先不安しかない」「働けなくなったら生活保護になるしかない」「同室の長く入院している患者さんが病院の人に『60万ほど支払いがまだです』と言われていたのが聞こえ、自分も不安に」そんな悲痛な声も多い。
そこにはドラマのように苦しくても感動的な闘病生活は存在せず、生きるための「お金」という現実しかない。
また多くの長期治療の必要ながん患者さんのなかには、声を上げたくても、自分だとわかると働けなくなる、知られたくない、という人もいる。なぜなら転職を余儀なくされ、派遣やアルバイトに変わる人が多いが、そのたびに周囲の無理解や無遠慮に何度も直面させられ疲弊してきた人が多いからだ。最初は正直に打ち明けてみたものの、心ない言葉に傷つき、しつこく病名を聞かれた経験があり、それからは病気を隠して働くようになったという。
そして、これまでの治療費に300万円、500万円以上かかったと教えてくれた患者さんもいた。収入によって違いはあるが、今後も毎月5万~10万円以上ものお金が必要で、もし万が一また負担が増えることになれば、今度こそ生活と自分の闘病を天秤にかけさせられる。もう、これ以上は無理だと諦めることになってしまうかもしれない。「当事者のご意見を十分に聞く努力」を今後もしっかりと政府は考えてほしい。
医療の進歩でもたらされた希望と経済的な苦痛
いつの日か家を買うために、夢だった旅行へ行くために、そして子どものためにと必死で働き貯めていたお金が「生きるためのお金」に変わっていく現実。今の日本社会において、病気になっても可能な形で働き続けられる、全面的にサポートしてくれる、そんな会社は少ないのではないか。多くの人たちは、物価高、人員削減、低賃金に苦しみながら、余裕などない。世の中の歪み、拡がる格差は、長く病気と闘う人にも容赦などない。
冒頭で紹介した看護師の智子さんは、昨年手術をし、現在は放射線治療をしている。体調がゆるす範囲で今も働いているが、かつて結婚していたときに、いつか増える家族のためにと考え、購入した家は離婚後も売れず、今も1人でローンも払い続けている。綱渡りのような生活は続いていく。