全国がん患者団体連合会などの関係者から署名を受け取る福岡資麿厚生労働相(右)ら。2025年2月12日(時事通信フォト)
医療費が高額になった患者の自己負担を抑える「高額療養費制度」が、2025年8月からひと月あたりの負担の上限額を引き上げることが決定した。石破総理は「当事者のご意見を十分に聞く努力をさらにすべきだった」と患者団体からの切実な訴えを受けて、12か月以内に3回利用すると4回目から負担が軽減される多数回該当の引き上げについては見送ることになった。自分や家族が病気にならないと深く理解することは難しいかもしれない「高額療養費制度」。2人に1人はがんになる時代だと言われている今、患者たちが直面している、命とお金を天秤にかけさせられる厳しい現実について、ライターの服部直美氏がレポートする。
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「今回のことで多くの人に高額療養費制度のことを知ってもらえたし、患者団体の方たちの訴えや署名活動で、私みたいにずっと治療を続けなければいけないがん患者は、少しほっとしたかも。4回目から負担が軽減される多数回該当の引き上げについては見送るって。今回テレビや雑誌でもたくさんとりあげてもらえましたが、病気の治療、収入などでも色々違うので、数字だけではなかなか理解できないかもしれないですよね。」
智子さん(仮名)は、現在40代の看護師。そして乳がんと8年以上も闘っている高額療養費制度を利用している患者のひとりだ。
「薬を使えば延命できる、でもそれは保険証があっても高額で。もし、それが死ぬまでずっとだったらどうなるか。それならわかりやすいですかね。身体もつらい、気持ちもしんどい、それなのに『お金』のことも、ずっと考えなきゃいけなくなる。働いて貯金して生命保険にも入っていた私も最初は大丈夫でした。でも追い詰められていくんです。ゴールがいつなのか、わからないから」
智子さんは看護師として最初は病棟で2年ほど働いていたが、あまりの激務に耐えられなくなり、その後施設の夜勤専従看護師として働くようになった。20代で結婚しマイホームも購入、夫と共働きでローンを懸命に返済していた。しかし8年前の30代の頃、キャリアを見直したいと専門学校へ通い始めた夫が別の女性に好意を抱いていることがわかり、家庭内別居となってしまう。
そんな私生活が決してうまくいっているとはいえない頃、智子さんは胸にしこりを見つける。病院へ行くと「ホルモンバランスの乱れですね」と診断されるが、看護師でもある彼女は、すぐに違う病院で再検査を受けた。すると、その病院の医師から「乳がんのステージ3b、リンパ節転移しています。平均余命は10年くらい。でも10年後には医学も進歩しているし、もっと延命できるから」と乳がんであることを告知される。