それでもドラゴンズファンはやめられない(時事通信フォト)
幼少期からの筋金入り中日ファンの大学教授が著した異色の新書『人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた』では、「日中問題」の研究者である富坂聰氏(拓殖大学海外事情研究所教授)が、ドラファンが長年背負ってきた“残酷な歴史”を綴っている。シリーズ第10回では国民的野球漫画『巨人の星』における中日の扱いについて苦言を呈する。(シリーズ第10回。第1回から読む)
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中日ドラゴンズがどれほど強くても、アナウンサーは巨人対阪神戦を「さあ、伝統の一戦です」と繰り返す。巨人のV10を阻止したのは中日という歴史的事実があっても、「伝統の一戦、巨人対阪神」は変わらない。首位(たいていは巨人)との対戦成績でどんなに中日が勝ち越しても、「伝統の一戦、巨人対阪神です」。
中日対巨人……、はい、非伝統の一戦です。
こういう無意識下の「軽視」は、じつはそこらじゅうに転がっている。
たとえば、昭和の野球少年たちのバイブル、『巨人の星』だ。この漫画、昭和のオヤジたちの人生をどれほど狂わせたことだろうか。
主人公は巨人のエースとなるべく努力を重ね、奮闘する星飛雄馬。物語は父と子の愛憎劇だ(もちろんフィクションだが)。飛雄馬は巨人を日本一にするため、3つの魔球を生み出し、敵チームの主力打者をバッタバッタと切って捨てる。
魔球は、ビーンボールギリギリで打者のバットに当てる大リーグボール1号から、通称・消える魔球の大リーグボール2号。そしてスイングの風圧でバットをよけてしまうという超軽量の大リーグボール3号だ。
いずれもデタラメな魔球だが、少年たちは夢中になった。大リーグボール1号は子供が投げると間違いなくデッドボールか暴投。2号は足を高く上げて土埃を巻き上げるため、誰かが「痛い」と目を押さえて試合が中断するのがお約束だった。なかにはバッターが目を押さえている間に何球も投げて「はい、三振」ってやるズルいやつもいた。3号はただのスローボールだから、簡単に打たれて終わり。すべてあるあるだ。
星飛雄馬を打ち砕いたのはドラゴンズなのに
漫画の話に戻ろう。
飛雄馬には当然ライバルたちがいて、魔球は彼らに打ち砕かれる。飛雄馬の最大のライバルといえば、やっぱり阪神の選手になる。その名も花形満。イケメンだ。
だが、飛雄馬の魔球を打ち砕くという意味では、圧倒的な存在感を示すのが実は中日だ。
大リーグボール1号は、巨人からライバルチームの中日に移籍してきた飛雄馬の父・一徹が、米大リーグのセントルイス・カージナルスに所属していた通称「野球ロボット」のアームストロング・オズマを呼び寄せ、オズマが特訓の末に身に付けた「見えないスイング」によって粉砕される。
大リーグボール2号は、花形が場外ホームランを放り込んで飛雄馬に引導を渡すのだが、最後の大リーグボール3号に立ちはだかるのは、またまた中日の一徹だ。飛雄馬の高校時代からの親友・伴宙太を巨人から呼び寄せ、友情にひびを入れながら息子の魔球までを葬り去ってしまうというバッドエンドだ。
つまり、巨人の星を目指す飛雄馬と死闘を演じるのは、圧倒的にブルーのユニフォームの中日ドラゴンズなのだ。そうなのだが、肝心のペナントレースは巨人と阪神が激しい首位争いを演じているって設定だ。
おーい!