4年目シーズンを二軍で迎えた根尾昂(写真は2024年、時事通信フォト)
実力は球界屈指でも、なぜか全国区の人気にはならないことが多い中日ドラゴンズの選手たち。半世紀超のドラファンで、『人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた』の著者・富坂聰氏(拓殖大学海外事情研究所教授)が、入団後に目覚ましい活躍をしながらも大成できなかった近年のケース、活躍が期待される若手選手の現在とこれからについて綴る。(シリーズ第12回。第1回から読む)
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もっとも、藤島健人投手の素晴らしさはドラファンだけが知っていれば十分かもしれない。
その点について藤島とは真逆で、全国区の人気者になってほしかった、いや、なってしかるべきだった投手がいる。吉見一起投手だ。
2011年、ドラゴンズがリーグ優勝した年に18勝を挙げて最多勝。最優秀防御率、最高勝率も手にし、ベストナインにも選ばれた中日が誇るべきエースだ。
吉見の凄さはどこにあるのか。それは150キロを超すストレートも鋭い変化球もないのにこの成績、という点にある。つまりコントロールと頭脳だ。
技術の話はご法度なのは分かったうえで、少し触れておきたい。というのも、気の利いた解説者、なかでも理論派でうるさ型の解説者ほど吉見を絶賛するからだ。そのとき彼らがよく使うフレーズが「ボール半個分を操って打者を打ち取る」だ。
この言葉を聞くたびにドラファンは大きく頷く。「分かってるねー」と。
白眉はコントロール。どうしてもダブルプレーが欲しい場面があれば、吉見はボール半個分を出し入れして、打者に内野ゴロを打たせる。試合を見ていて“吉見、狙っているな”と思うとワクワクした。結果はたいてい期待通り。絵に描いたようなゲッツーだ。
見事だ。スカッとジャパンだ。
逆に、吉見と対戦するチームは、かなり歯がゆい思いをしてきたはずだ。選手はバットにボールを当てている。当ててはいるんだけど、なかなかヒットにならない。そうこうしているうちに、スコアボードにはゼロが並ぶ、という塩梅だ。「幻惑されて」(レッド・ツェッペリン)しまうのだ。
2014年に『ヤングジャンプ』で連載が始まった野球漫画『BUNGO─ブンゴ─』のなかに、主人公が憧れる偉大な先輩が出てくるのだが、その名は「吉見」だ。作者の二宮裕次先生、これ、ウチの吉見ですよね? 二宮先生、「分かってるねー」。
ミニ情報だが、ソフトバンクからニューヨーク・メッツに渡った千賀滉大投手が慕っていたのも、この吉見だ。魔球「お化けフォーク」でニューヨーカーを沸かせ、新人でMLBのオールスターに選出された、あの千賀だよ。
それほど凄い投手が、なんで全国区の大投手としてチヤホヤされなかったのか。理不尽さを感じるドラファンは少なくないはずだ。
抜群のコントロールで最多勝2回、最優秀防御率1回を獲得した吉見一起(時事通信フォト)