甲子園での二刀流が話題になった2018年のドラフト1位・根尾昂。今シーズンから背番号は「30」に(時事通信フォト)
根尾を語ることは、人生を語ること
かねてからドラゴンズの新人育成の手腕には大きなクエスチョンマークが投げかけられていた。大谷翔平選手が二刀流で超絶の飛躍を遂げ話題をさらっていた時期でもある。才能にあふれた器用な根尾の未来は、投手なのか野手なのか、はたまた二刀流なのか。甲子園の二刀流ヒーローの将来には、1球団の枠を超えて関心が集まっていた。
SNS花盛りの時代。球界OBが「オレならば」と育成のアイデアを競えば、ファンは「大谷を育てた日本ハムやシステムの充実したソフトバンクに行ったほうが幸せだったのではないか」と騒いだ。
つまりドラゴンズは鼎の軽重を問われたのだ。
答えは、まだ出ていない。
だが、率直な感想を言えば、「見ていて苦しくなる」だ。根尾がいろいろ考え、トライ・アンド・エラーの最中にいるのもよく伝わってくる。一直線に努力していることも。
だからこそ、ファンとしては見ていて窒息しそうな気持ちになる。
根尾ほど多才な甲子園のヒーローであれば、先が「暗い」とまではいえないかもしれない。だが、着地点が多すぎれば、かえって迷いを生むのかもしれない。むしろ「自分には、これしかない」と思えるほうが生きやすいこともあるだろう。
ドラゴンズの根尾を語ることは、つくづく人生を語ることだと感じるのだ。
海を渡ってもそれは変わらない。
中国・北京にはドラファンのための「龍飛会」という組織があり、北京の乾いた空気に“竜の叫び”を響かせている。伝統ある組織で、シーズン中は毎月、メンバーが集まって中日戦をテレビ観戦しながら会食するのだが、ここ数年は決まってエース・髙橋宏斗投手が先発する日を狙って集まっているというから涙ぐましい。
メンバーは企業派遣のサラリーマンから、現地で会社や飲食店を立ち上げた企業経営者までさまざまだ。中国の現場と日本の本社の板挟みに遭っても、PM2.5を吸い続けても、中国の急な制度変更にも負けなかった歴戦の勇士たちだ。
日中の明るい未来を願いつつ、中日を応援する。私と同じだ。
一昨年の秋、私はその「龍飛会」に参加する栄誉を得たのだが、そこで話題に上ったのも根尾問題だった。
この話題はどこでやっても多事争論となるのだが、海を越えても同じだった。そして、ひとしきり根尾の話題で盛り上がったところで、メンバーの1人がボソリとつぶやく。
「誰にも答えが分からないことだから……」
その通りだ。難しいよ、人生は。