2025年シーズンから指揮官を任された井上一樹監督。戦いはまだ始まったばかり(産経新聞社)
石川昂弥選手と堂上直倫選手に漂う“同じ匂い”
富坂:それは石川選手の育て方にも関わる話ですね。
宇野:そう。昂弥もホームランバッターの才能にあふれているんだから。
富坂:石川選手からは、(2023年に引退した)堂上直倫選手と少し似た匂いがします。
宇野:直倫ね。うーん、ナオ……(しばし沈黙)。いいとこついてくるね。ナオはねえ、入ったとき本当にいい選手だったんだ。現役後半に言われたような「守備の人」じゃないよ。だってそりゃ、巨人の坂本勇人より評価が上だったんだから。
富坂:なぜ期待された結果につながらなかったんですか。
宇野:それはね、プロ野球界にある変な流れ。たとえば、いまの時代は流し打ちすると、「うまいバッティング」って褒められる。それって、僕は変だと思ってるんだよ。
富坂:確かに反対方向のホームランは、引っ張ったホームランより称賛されますね。
宇野:僕は2年目のシーズン(1978年)にホームランを3本打ったんだけど、ライト、センター、右中間。全部、流し打ちだった。でも、誰からも「右へ打て」なんて言われてないし、狙ってもいない。右を狙って打つとヘッドスピードは上がらない。当然150キロの速球には力負けしちゃう。
富坂:いまは普通のピッチャーだって150キロを出しますからね。
宇野:そう。いまの日本のプロ野球は、ピッチャーは完成している。外国人投手と同じレベルで150キロの球を投げる。だけどバッターは成長してなくて、負けちゃってる。
富坂:成績を見ても、投高打低です。
宇野:出てくるピッチャーがみんな150キロを投げちゃうと、1点か2点しか取れない試合になっちゃう。だから試合が面白くない。日本のプロ野球は過渡期に来ているよ。だからバッターはね、右を狙うんじゃなくて、“しっかり振ったら、たまたまそっちに飛んでった”ぐらいでいいんだよ。
富坂:直倫選手はそのへんで悩んだのでしょうか?
宇野:いろいろ教えすぎて、それで潰しちゃった。僕は中日が一番うまく育てられなかったのはナオだと思っているんで。
富坂:でも、ナゴヤドームの大きさもありましたし……。
宇野:いや、それを言い訳にしちゃダメですよ。僕が中日の打撃コーチだった頃、彼に何度も言ったんだよ。「ナオ、お前はレフトに大きなのを狙っていけ」って。三振してもいいからって。でもね、“世間の野球はそう(流し打ちに)なっている”という刷り込みが強かったんだろうね。プロ野球にはいろんな選手が入って来るわけで、“自分の強みはどこにあるのか”を見極めるのも大切なんだけどね。