ミャンマーの特殊詐欺拠点からタイに移送された日本人の男(右から4人目)。3月18日午後(時事通信フォト)
ミャンマーの国境地帯に監禁され特殊詐欺の「かけ子」をさせられていた日本の高校生が保護された、というニュースには日本中が驚かされた。国境を越えて犯罪グループに利用される日本人は、今回の報道で明らかになった人たちに限った特殊な事例ではなく、こちらの予想以上に詐欺の拠点で働く日本人が他にも実は存在する。さらに、直近で起きた大地震の影響も踏まえ、特殊詐欺について取材を続けるライターの森鷹久氏がレポートする。
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「海外に行くという話は聞きましたが、実際何もわからないので…」
主に中国系反社会勢力によって仕切られたシステムに組み込まれ、ミャンマーを拠点に行われている特殊詐欺に関与した疑いがあるとして、タイ当局に身柄を拘束されていた29歳の日本人が、3月25日に日本へ強制送還された。東京や神奈川県内の親族を訪ねたがいずれも不在で、唯一、その人を知るという都内在住の飲食店従業員も、多くを語らなかった。この人物について、大手紙社会部記者が解説する。
「強制送還ののちに逮捕された日本人は、オンラインゲームで知り合った日本国内居住の高校生をタイまで呼び出し、特殊詐欺に加担させた疑いがかけられていました。が、今回の逮捕容疑は知人への暴行容疑です。タイでの拘束中、取り調べに対して、詐欺の拠点に10人前後の日本人がいた、などと供述しています。さらに、日本にいた頃から、中国人などから依頼を受けて海外へ人材を派遣するリクルーター的な役割を務めた、と話しているそうです」(大手紙社会部記者)
日本人経営の和食店が夜逃げした
タイで日本人が拘束されたと報じられた2月、その容疑者が犯罪リクルーターのような存在だったと伝えられると、日本の警察関係者、マスコミ記者が相次いで現地入りした。彼らが駆け付けたのはタイだけでなく、詐欺の拠点が点在するとされるミャンマーはもちろん、カンボジアやラオスなどの周辺国などで、事情に詳しい地元在住の日本人たちも巻き込み、捜査、取材合戦が今も続いている。東南アジア某国在住で地元事情に詳しい飲食店経営の日本人男性の元にも、複数の日本マスコミから「取材依頼」が殺到していると言う。
「東南アジア各国に存在する詐欺拠点に、一体どれだけの日本人がいるか、誰も把握していません。マスコミは、現地の警察や入国管理局が拘束した人たちの供述などから、その都度”他にも日本人が何人いる”と報じますよね。でもあれは、氷山の一角でしかない。何十人どころではない、数百人、もしくはそれ以上の日本人が各地の詐欺拠点にいる可能性が高い」(東南アジア在住の日本人男性)