『おかあさん』第184話「生きる」より。後の実相寺組常連が集結している
アーカイブを掘り起こす意味
佐井は以前のインタビューで「『大衆というのは極めて保守的である』という視点に立って、テレビドラマはつくられるもの」と語っている。彼の先鋭的なドキュメンタリー作品を見ると、彼自身のやりたいこととギャップがあるのではないかと思われがちだが、決してそうではないと佐井は言う。
「むしろ今すごく興味があるのは、ホームドラマです。山田太一や向田邦子のホームドラマを見返してみると、すごくサスペンスフルなんですよね。人が死んだり、大きな事件は起こらないのですが、すごく緊張感があるんです。そういうのをまた今の時代でどうすればできるのだろうと考えていますし、いつかチャレンジしてみたいですね」
佐井と話していて驚くのは、古い時代や人物への知識の深さだ。そう言うと「いやいや、むしろ知らないことばかりですよ」と謙遜しつつこう続けた。
「スポーツには全然興味がなかったんですけど、最近、力道山のことを調べ始めたらめちゃくちゃ面白くて。戦後の興行の在り方、政治、暴力団、赤坂の都市開発……全部つながっているんですよね。そうやって掘っていくのが楽しいんですよ。
でも基本は、特撮と映画と音楽が興味の対象です。最初はビートルズに大きな関心があって調べるうちに、ビートルズが録音したスタジオは音が良いことを知ります。じゃあ、そのスタジオで録音した他のバンドのアルバムも聴いてみよう、ってなる。中高生からずっとそういう性格だから、気づいたら、こういう仕事に就いていたっていう感じです」
佐井は一貫して過去に学び、現代に変換しようと模索している。ドキュメンタリー制作においても、今回の「映画祭」でも、過去のアーカイブを意識的に活用している。
「単純にフィルムの映像が好きというのもあるんですけど、星野源さんや大瀧詠一さんも自覚的にされていることだと思いますが、“今ある豊かさ”を縦軸で考えるようにしています。それが歴史の中にどのような位置付けがされているのか、意味を見出していくことが好きなんです。何らかの“普遍性”を探すということなのかもしれません。入口は映像自体への興味でしたが、だんだんとその視点にも目覚めた感じですかね」
「TBSレトロスペクティブ映画祭」は、単なる“懐古”ではない。テレビというメディアの可能性や映像作家としての在り方を問い直しつつ、そこにある「普遍」を探るものになるに違いない。
(了。前編から読む)
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【プロフィール】佐井大紀(さい・だいき)/2017年TBSテレビ入社。ドラマ制作部に所属。連続ドラマのプロデューサーを務める傍ら、ドキュメンタリー映画『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』を監督している。
◆取材・文 てれびのスキマ/1978年生まれ。ライター。戸部田誠の名義での著書に『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『タモリ学』(イーストプレス)、『芸能界誕生』(新潮新書)、『史上最大の木曜日 クイズっ子たちの青春記1980-1989』(双葉社)、菅原正豊との共著に『「深夜」の美学―『タモリ倶楽部』『アド街』演出家のモノづくりの流儀』など。
撮影/槇野翔太