藤島が「可哀そう」というのとも少し違う。

 可哀そうというのなら、星野監督から「ぶつけろ」と命令され、巨人のウォーレン・クロマティ選手にデッドボールを当てて、ぶん殴られた宮下昌己投手のほうがよっぽど可哀そうだ。もっとも、宮下には同情するものの、私の心まで傷つきはしない。

 牛島和彦投手が抑えで失敗したときにも、やはり藤島風の感覚が去来する。和田一浩選手がチャンスで凡退してしまったときにもチクリとした痛みを覚える。和田の場合は牛島のケースよりも、さらに藤島に近い。

「藤島は、ドラゴンズですからね」──あるドラファンの同志はそう言って目を輝かせる。

 そう。この形容が一番ピタリとくる。ミスタードラゴンズではない。藤島は「ザ・ドラゴンズ」だ。

 いわゆる「好きな選手」や、アイドルの「推し」とも微妙にズレる。仁村徹選手や上川誠二選手も、藤島ほどではないが、かつて同じ匂いを放っていたのを覚えている。

「ザ・ドラゴンズ」は、最強カードのジョーカーにもなる。中日の負け試合でも、藤島が途中の回をピシャリと抑えた日には、なんだか死中に活を得たように救われた。

 ここからは妄想だ。

 藤島が先発する試合があって、巨人の菅野智之選手(もうメジャーに行ってしまったけど)と投げ合い、1対0の接戦をものにするなんて日があれば、それこそ中日がBクラスでシーズンを終えたとしても我慢できるような気がする。その試合の決勝点が田中幹也選手のソロホームランだったとしたら、なお痛快だ。

(第12回に続く)

※『人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた』より一部抜粋・再構成

【プロフィール】
富坂聰(とみさか・さとし)/1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授、ジャーナリスト。北京大学中文系中退。1994年、『龍の伝人たち』で21世紀国際ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。『中国の地下経済』『中国の論点』『トランプVS習近平』など、中国問題に関する著作多数。物心ついた頃から家族の影響で中日ファンに。還暦を迎え、ドラゴンズに眠る“いじられキャラ”としての潜在的ポテンシャルを伝えるという使命に目覚めた。

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