そういえば落合博満選手がロッテから中日に移籍してきて、ゆっくり打撃フォームを見る機会を得たが、落合の打ち終わりのポーズは、井上とよく似ていた。それを誰かと共感したいのだが、今日までその機会には恵まれていない。
井上ファンが少ないからだ。珍しく東京でドラファンに会っても、その話題で盛り上がることはできない。「へぇー、井上が大好きだったんだー」、の後が続かないのだ。
先ほど「カープにいそうな」と説明したが、井上は実際にカープから来た外様だった。
広島市民球場のバックスクリーンには、移籍後もしばらく井上の名前が残っていた。グリーンのバックに白で描かれたダイヤモンドの、サードの位置には「井上」とあったのだ。確かめたことはないが、中日に移籍した井上弘昭以外には考えられない。
それにしても、なんで名前なんか書いたのだろう。選手には好不調やケガが付きまとう。競争の厳しい実力社会であれば移籍も当たり前だ。レギュラーがころころ変わることも想定されていたはずなのに、ペンキで名前を書いちゃう? 小学生ながら不思議に思った。夏休みの宿題をためて迎えた8月の末、いつも自分の計画性のなさを恨んだが、それでも「広島市民球場(の計画性)よりはマシだ」と思えば、幾分救われた。
井上ファンの希少性については、分かりやすいのが姉の反応だ。「君臨すれども統治する」姉は、我が家では女王様だった。その姉に私が「井上が好き」と言うと、漫画本を読みながら「ゲッ!」と、一言で切り捨てられた。
藤波行雄選手や田尾安志選手みたいな「さわやか系」しか眼中になかったのだ。
だが、姉には感謝している。出身地の関係でナチュラル・ボーン・ドラファンになった私だが、それでも巨人と中日の力関係は見ていれば自然に理解できた。だから姉に、なぜジャイアンツを好きにならなかったのか、と訊ねてみたことがあったのだ。
そのとき、姉は、
「だって、ユニフォーム、おじん臭い」
と、ここでも切り捨てたのだ。“ああ、その感覚でいいんだ”と妙に自分も納得したのを覚えている。私は正しかったのだと、勇気が湧いた。その容赦のない姉に、「宇野が好き」と言うと、意外にも「ふーん」とまんざらでもない反応が返ってきた。